小説 川崎サイト



神弄り

川崎ゆきお



「神も仏もいない」
 自治会長がポツリと言う。
 山間のニュータウンにある自治会での話だ。
 山を削って出来た町だけに、地元の人は最初からいない。
 この雲の台ニュータウンは殺伐とした事件が起こっていた。
 事件は内部の人間が起こしている。
「神社が必要だと思う。寺はまあいいとして」
「お寺もいいんじゃないですか」
「敷地がない」
「そうですねえ」
「それに寺も食っていけんだろ」
「神社の場合、どうなります」
「祠でよい。この自治会館の庭に建てればよい」
「寄付、集まるでしょうかね」
「自治会で決まれば集められるはずだ」
「どの神様を呼ぶんでしょうか?」
「なんでもいい。分けてもらえばよい」
「どこから」
「神社からだ」
「高くつきそうですよ」
「それなら、わしらで呼べばよい」
「どこから」
「神は何処にでもおる。手っ取り早いのは山の神だ。祠は犬小屋程度でいい。大工に頼めば造ってくれるはずだ。経費はそれだけだ。費用が分かれば寄付金を各戸に割り当てる」
「それで町は鎮まるでしょうかね」
「ここほど荒れとる町はない。自然が豊かなのはよいが無理やり山を削り取り、バチあたりなことをしたんだ」
 出席者はそんな迷信めいた話を信じているわけではないが、反対する理由もない。
「わしは子供の頃から何度も引っ越した。だが、神社も寺もない土地など初めてだ。このニュータウンに欠けているのはそれなんだ」
「言われてみるまで考えもしませんでした」
「僕は団地で生まれ育ったので神社は」
「近くになかったか?」
「あったように思いますが」
「そうだろ、ここは元々山なんだ。人など住んだことがない場所なんだ」
 自治会長の暴走で、小さな祠が完成した。御神体は山から運んできた石だった。
 雲の台ニュータウンに聖なる場所が出来たのだ。
 しかし、妙な噂が立った。
 夜中、祠に妙なものが集まって来るらしい。山から魑魅魍魎が降りてきているのだ。
 
   了
 
 

 

          2007年3月30日
 

 

 

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