小説 川崎サイト

 

生存確認


 いつも見かける友人が、最近見かけない。始終見かけるわけではないので、いつもではないが、数日に一度ほどは姿を見る。向こうが先に見付けても、こちらが先に見付けても、そのままやり過ごす。目が合ったときは近付き、ひと言二言交わす程度。昔からの疋田の友人なのだが、それほど親しくはない。それに最近は互いに用事がないため、挨拶程度。いずれも偶然道で行き合っただけなので、そこでイベントが発生してもいいのだが、別のイベントへ向かう途中が多い。または、帰路を急いでいるときや、戻ってからも特に何もなかっても、予定が狂うためか、何処かへ誘ったりするようなことはない。
 その友人を最近見かけない。住んでいる場所も知っている。何度か訪ねたこともある。
 何かあったに違いないと、最初思うのだが、立ち回り先が変わったのかもしれないし、時間帯を変えてきたのかもしれないし、または引っ越したのかもしれない。しかし、真っ先に思い浮かぶのは、相手の体調だ。
 一週間や二週間は気付かないが、数ヶ月ほど経過すると、あの友人のことを思い出したとき、最近見かけない、となる。これが用件でもあればすぐに分かる。それがないので、風景でも見ているのと変わらなくなる。
 疋田は心配というより、どうなったのかが知りたいと思い、友人の住むマンションへ行った。中に入るのではなく、暗くなってから窓明かりを見るためだ。部屋は三階にあり、それが見える場所がある。明かりがあれば大丈夫。
 マンションの裏側にその窓があり、西日の差し込みが強いのか簾をかけている。それが目印。他の部屋の窓は普通のカーテンだけ。
 そして三階の窓を見ると明かりがあるので安心したが、簾がない。この簾は年中ある。それがない。カーテンが閉まっているが、色までは覚えていない。簾でカーテンが隠れているためだ。
 簾を引っ込めたのだろうか。その友人はここに引っ越してからずっと簾をかけている。
 引っ越したのかもしれない。
 念のため疋田は三階まで上がり、ドアを見る。友人がサインペンで書いた表札がある。
 引っ越していない。
 疋田はチャイムを鳴らす。
 すると奥から物音が聞こえ、ロックを外すカチッという音と共に、ドアが開く。
「どうしたの、疋田君」
「あ」
 事情を聞くと、膝が痛いので、最近は車で移動しているとか。それでいつも自転車ですれ違うのだが、気付かなかったようだ。しかし友人は車の中から疋田をよく見かけているらしい。
 簾を外したのは、この前の台風でばらけたためのようだ。

   了

 


2016年11月2日

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