小説 川崎サイト



占い師の店

川崎ゆきお



 占いの店が数多く集まっている参道がある。
 一人の占い師が追放された。
 ただでさえ過当競争で、客の取り合いとなっていた。
 占いの店の多くはチェーン店で、同じ人が経営している。日や時間帯で占い師は交替する。
 経営者は家元で、その弟子を派遣している。
 家元は複数おり、その数だけチェーン店が出来ている。
 同じ場所に同じチェーン店が複数あるため、隣の店も根元は同じだったりする。
 場所は神社へ向かう参道なのだが、占い店は五十は越えているだろう。
 流行らなくなった土産物屋や、普通の民家のガレージとかが占い店になっていた。
 参拝客の多くは年配の婦人が多い。
 どの店もテレビや雑誌で紹介されたことを自慢げに貼り出している。
 追放された占い師には家元がいなかった。参道際の祠の前に座っており、店構えはない。
 気をひくような飾りや道具や置物もない。客に座らせるための折り畳みの椅子だけだ。占い師は祠の石段に腰掛けている。
 ほとんどの占い師は西洋式だが、彼は袴姿の老人だった。しかし道具は何一つ持っていない。
 追放されたのは行列が出来たためだ。家元制の店は過当競争で客がいるのは稀だ。
 その占い師は実は占い師ではなかった。霊能者である。
「あきまへんなあ」
 神社の裏で追放された老人が言う。
「御苦労様でした」
 相手は宮司だ。
「参拝者も参拝者でんなあ。おみくじより西洋占いを信じるとはな」
「いやいやこれも時代」
「そしたら、わては退散しまっせ」
 宮司は礼金を手渡す。
「役に立ちましたんか?」
「本物を見せてあげたかったんですよ。あの連中に」
「神通力をあんなところで使うもんやおへんけど」
「占いに来た客の中に沢山占い師のおばはんやおっさん来てましたわ」
「そうでしょ。きっと探りに来ると思っていました。ライバル出現ですからねえ。あの行列を見たら。黙っているわけにはいかないでしょう」
「あの連中、みんな悪い物が憑いてましたなあ。わても怖かったがな」
「おお、それは怖い怖い」
 
   了
 
 
 

 

          2007年4月1日
 

 

 

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