小説 川崎サイト

 

のんびりとした暮らし


 年末の忙しい時期、島田は師匠の近所まで雑用で来たので、寄ってみることにした。ただでさえ忙しいのに用事を増やすようなものだが、一つぐらい増えても大した違いはない。それで、駅前で師匠の好きな饅頭を買い、訪ねることにした。
 師匠といっても、昔のことで、今はその師匠も引退しており、老後を静かに暮らしている。
 チャイムを鳴らすと、かなり経ってから師匠が玄関戸を開けた。昼寝をしていたのか目やにが付いている。髪の毛は少ないが、後頭部に残っており、髪の毛が耳のあたりから飛び出していた。
 菓子箱を出すと、包装で分かるのか、師匠好みのアンコロ饅頭だと分かり、二三度頷いた。早速食べると言い、お茶を入れた。
「最近どうですか」
「慌ただしいねえ」
「忙しいのですか」
「何かとね。ただ、雑用だがね。あまりやっても楽しくない。まあ、メンテナンス系だよ。修理とか、更新とか、そんな感じだ。そんなことをやっていても、特にいいことはない。放置していると、悪いことが起こるからやっているだけでね。まあ、悪いことと言っても大したことじゃない。少し面倒になるだけ」
「はい、それでお忙しいと」
「年末だし、気ぜわしいねえ」
「でも、そこの川や池で釣りをされているのをよく見ますが」
「それは外せない。山歩きもね。そして昼寝もね」
「じゃ、ゆっくりとされているんじゃないですか」
「いや、近場じゃなく、渓谷釣りや海釣りもしたい。大きな湖でもいいねえ。忙しいときはそんな暇がない。山歩きも近くの山じゃなく、知らない山へ行きたいねえ」
「はい」
「それに最近は」
「まだありますか。忙しいことが」
「妖怪探しで忙しくてねえ」
「はあ」
「まあ、しなくてもいいことなんだけど」
「そうですよ」
「しかし、実際に必要なことになると、さっぱりだ。督促状が来て、直接振り込まないといけないとかね。面倒だねえ」
「のんびりとお過ごしのようで安心しました」
「あ、そう」
 
   了

 


2016年11月8日

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