小説 川崎サイト

 

御三家筆頭


 御三家筆頭は凡庸で頼りなさげな人だ。当然他の二家が支えている。これらの家は家老に当たる。主家があり、それに仕えているのだが、主家、つまり殿様は変わっても、家老は変わらない。筆頭家老が凡人でも、それでやっていける。
 あるとき異変が起こり、家中は大変なことになりそうなので、筆頭家老も忙しくなった。当時の殿様は機転がよくきき、頭の良い人だが、まだ若い。筆頭家老がその補佐に当たるのだが、頭だけが大きい人で、鈍い人だった。そして決断が遅い。そこで他の二家老が筆頭家老を補佐し、仕切るようになる。殿様も、そちらの意見に耳を傾け、筆頭家老は役立たずなので、無視された。
 二家の一人が切れ者で、その人が仕切った。もう一人は剛胆な人で、もし戦があったなら、猛将として、この人が兵を率いるだろう。しかし、政治的な頭はあまりないようで、そのため、切れ者の家老が難しい局面を乗り切ろうとした。悪く言えば一番効率のいい方法で。
 しかし、事態はそれではうまく切り抜けられない。芸が浅いというか、根本的な解決策にはならない。それで、剛胆な腹を持つ猛将タイプの家老が仕切り直した。力と勢いで乗り切ろうと。つまり、切れ者の家老は小細工が多く、誤魔化すことがうまかっただけ。
 猛将は直談判に出たが、逆に事態を悪くした。殿様は、これでもう頼れる人がいなくなったので、自分でやるしかないが、それができるのなら、最初からやっている。若いので経験不足のため、事態を甘く見ていたのだ。思っていることと実際とは違う。
 そして行き詰まったとき、やっと登場したのが本来その任にある筆頭家老。凡庸で鈍そうで、地味な人だが、結局この人が着実な手を打ち、多少時間がかかっても、周囲から攻めた。正攻法だ。
 これは凡庸な人だけに、一番汎用性のある方法を選んだだけのことだ。
 地味な人だが、面倒を厭わず、一手一手確実に決めていった。要するに普通に、平凡なことをしただけのことである。
 
   了



2016年11月17日

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