小説 川崎サイト

 

亀の池伝説


 上ノ池は神の池とも、亀の池とも呼ばれている。今は上ノ池として地図には載っている。上ノ池になったのは下にも池ができたときから。山に向かい二つの池があり、上ノ池は自然にできたもので、下ノ池は溜池で、掘った池。上ノ池と下ノ池は繋がっていない。
 最初は神ノ池、亀の池と呼ばれていたのは、亀が多くいたためで、水神様が祭られている。池の縁近くの浅いところに石組みの祠がある。水位はそれほど上がらないので、水かさが増えても沈まない。逆に干ばつで池の水がなくなるほど。
 水神様のお姿は亀なのだが、御神体ではない。水神様の化身が亀で、亀を祭っているわけではない。亀が多くいるので、水神様と縁があるのだろうという程度。そのため、亀でも蛇でもよかった。流石に蛙は無理かもしれないが。
 この二つの池は、どの川にも流れ込まない。川は遠くにある。だから貴重な水源だったので、水を大事にするということで、水神様が祭られている。
 当然水神様のお姿というのはない。亀や蛇、龍の形かもしれないが、太古の神々には実は姿がない。形もない。あれば俗っぽくなるだろう。
 亀の池時代の伝説が残っているが、あまり良いものではない。悪い話というより、話として、大したことがないためだ。しかし、分かりやすい。
 水神様の化身争いで大亀とカッパとが戦ったらしい。当然大亀が勝つ。これは池のヌシ争いのようなもので、大きなコイやナマズもいたが、予選で敗退している。その決勝戦が大亀とカッパ。カッパは相撲に持ち込もうとする。手足が長いのと腰が使えるので、色々な技が使える。亀は足が短く、首は結構伸びるが、頭突き程度の技しかない。
 大亀が相撲を嫌うのはひっくり返されると、自力では起きられないため。水中戦では亀の体当たりで、カッパは負けそうになったので、池端での戦いに持ち込んだ。
 そのため、大亀はガードに徹した。甲羅の中に入ってしまい戦車のように身構えた。カッパに比べ大亀は大きい。ひっくり返すにしても大きな岩を持ち上げるようなもので、これは無理だ。タイヤのない車をひっくり返すようなもの。しかしカッパは頭が良いので、櫓を持ち出し、それを下に差し込み、テコのようにして、持ち上げようとした。
 防御一方の大亀は、それに飽きたのか、口からドロドロとした黄色い濁った液体をカッパに吐いた。それが非常に臭くて、カッパはそれで逃げ出した。
 伝説としてはあまり上等ではない。これが年を経るうちに洗練された話になっていくのだが、この伝説は更新されないままなので、汚らしい話のまま。
 そして、今もその大亀は池のヌシとしているらしい。亀は万年鶴は千年と言われるほど、亀の長寿にあやかろうと、今でも、その石組みの祠だけは、放置されないで、しっかりと祭られている。
 
   了



2016年11月18日

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