小説 川崎サイト

 

寒神


 倉橋は寒気を感じた。もう冬に入っているが、まだ震えるような寒さではない。しかも暖房の入ったコンビニに入ったときだ。最初はむっとするほどの暑さではないものの、暖かさを感じ、ほっとしたのだが、そのあとすぐに寒くなる。暖房が急に切れたように。
 そしていつもの飲み物の紙パックを手にしたとき、その寒さはなくなった。特に何ということもない暖房の温度だろう。
 コンビニを出たときは、流石に冬の空気で、少し肌寒いが、こんなもの。だが、数歩歩いている間に、また寒気。これは体調が悪いのかもしれないと思うが、そんな感じになったことはない。また冷えればトイレへ行くことが多くなるが、それもない。そして、身体が熱くなったり寒くなったりではなく、一方的に寒くなる。額に手を当てるが熱はない。従って悪寒ではない。
「サムガミですなあ」
「寒がり」
「寒神です」
「何ですかそれは」
 倉橋が相談した相手は医者ではない。しかし、その姿から引退した藪医者のようにも見える妖怪博士。その人が散歩するのを倉橋は何度も見ていたので、きっと医者だと思い、気楽に声をかけた。しかし、妖怪博士では相手が悪い。正しい相談者ではないだろう。いずれにしても妖怪に持ち込むことになる。
「寒神とはなんですか」
「貧乏神のようなものですよ」
「それが憑いていると」
「今はどうですか」
「寒くはありません」
「どの状態で寒くなりますかな」
「ばらばらです。ですから予測できません」
「では、どんな状態でも寒くなるときにはなる」
「はい」
「寒神の悪戯でしょう。そのうち抜けます」
「風邪のようなものですか」
「まあ、そんなものです」
 妖怪博士は白紙の御札に「火」と朱書きしたものを倉橋に渡した。
 その後、寒神が去ったのか、妙な寒気は消えたようだ。
 
   了

 



2016年11月24日

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