「時代は変わったねえ」
「世代交替ですよ」
「知らない連中がうろうろしておってね。わしのこと誰も知らんときた。淋しくなった」
「現場、離れるとそんな感じですよ」
「君だけだよ、わしを覚えていてくれたのは」
「君原さんのことは先輩からお名前だけは」
「先輩って誰かな」
「桑田さんです」
「あの新人か」
「桑田さんは大御所で、私は桑田さんの口利きで、ここへきました」
「桑田が大御所か。いつの間にそんな出世をしていたんだろうなあ。連絡してくれりゃいいのに」
「じゃあ、君原さんは桑田さんの大先輩」
「ああ」
「また、現場復帰ですか」
「そうなるね」
「君原さんはお仕事が早かったとか」
「桑田に聞いたのか」
「現役時代、たまに噂で」
「そういえば、桑田は遅かったなあ。案外そんな奴が生き残り大御所になるんだ」
「その桑田さんも引退なされて……」
「もう、大御所でもなくなったのか」
「ひ孫さんと遊んでおられるようです」
「仕事には絡んでこないの?」
「はい、もう完全引退ですから。それに……」
「それに?」
「あちらのほうが少し」
「きてるんだね」
「お年ですから」
「わしは桑田より年上だよ」
「お元気で何よりです」
「まあ、現場には復帰したが、新人扱いだよ。桑田が元気なら、口を利いてもらえたかもしれんなあ」
「でも、君原さんより上の人はもういませんよ」
「それはそうだが、新人扱いだ」
「キャリアがおありですので、すぐに認めてもらえますよ」
「わしのキャリアは人脈だけでな。もう現場にいない連中ばかりだから役に立たん」
「でも、現役だから凄いと思いますよ」
「しかし、また一から覚えんと右も左も分からん」
「まだ、やるべき仕事があるだけ幸せだと思いますよ」
「まあ、そうだな」
了
2007年4月3日
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