小説 川崎サイト

 


 鬼の顔は優しくない。いつも怒っているような顔で、怖い顔をしている。それがデフォルトだとしても、そこからの変化はあるのだろうか。
 鬼の目にも涙というのがある。これは悲しんでいるのか、有り難くて泣けるのか、悔いて泣いているのかは分かりにくいが、そのとき、表情が変わるのかどうかだ。怖い顔をしたまま泣いていたり、喜んでいたりしそうだ。
 鬼にまつわる言い方は多い。鬼の霍乱は、病気などしたことのない人が、風邪を引いたときに使ったりする。弱点もあり、完璧に頑丈で強いわけではなさそうだ。人間のような弱点があり、弱い箇所もあり、感情もあるのだが、それはデフォルトではないので、滅多にお目にかかれない表情だろう。鬼も笑うが、来年のことを言うと笑うような話で、これは喜怒哀楽とは少し違う。笑い方にも色々とある。
 鬼のような顔の人もいる。鬼面、鬼瓦。これは喜怒哀楽に関係なく、そういう顔立ちの人がいる。怖い人とは限らない。
 怖いのは普段は穏和そうな、またはそれほど表情のない人が急に怒りだし、鬼のような怖い顔になる場合だろう。瞬間湯沸かし器のように、いきなり怖い顔になり、怒り出す。普段から怖い顔の人ならいいが、そうではない場合、この変化が怖い。より効果的なのだ。
 心に夜叉を持っている、などはあまり表情には出ない。こちらの方が分かりにくく、巧妙だ。
 人が怒ったときの表情、怖い顔をしたときの表情というのは印象に残るようで、顔だけで威圧感がある。それを見た人は怖いだろうし、いやな気になるだろう。できればそんな表情など見たくはない。
 人が怖い顔になったとき、鬼になるのかもしれない。
 しかし鬼というのは、どのレベル、クラスだろうか。それほど高い身分でもなさそうだ。怖い顔をして脅かしているようなもので、あまり巧妙な手とはいえない。単純明快すぎる。
 鬼のいぬ間の洗濯もあれば、鬼の洗濯場というような岩もある。結構人々の暮らしの中に入り込んでいる。
 鬼の実体は分からない。誰も鬼など見たことはない。ただ、人に近い身体や顔を持っている。そして鬼の象徴は角。これは動物的な怖さからきているのだろうか。
 
   了


2016年12月3日

小説 川崎サイト