小説 川崎サイト

 

雨の日の二人


「雨ですなあ」
「昨日は寒いですねえ、でしたね」
「はい、今日は雨ですが、寒くはありません。冬の雨ですからねえ。本当に寒いと雪になる。不思議と雨の日は暖かい。しかし、雨は雨。雨の降る日は天気が悪い」
「いや、天気に良いも悪いもないでしょ」
「晴れていると天気が良いでしょ」
「まあそうですが」
「天の機嫌が良い。だから晴れ」
「そういうのは人の感情を反映させているだけでしょ」
「反映」
「人の感覚と重ねてみているだけです」
「まあ、そうなんですがね。冬の雨は冷たい。濡れると嫌です。だから、外に出たくない」
「出て来たじゃないですか」
「ここに来るのは日課ですからね」
「昨日は確か寒くて籠もりがちだと言ってましたが、やはり来てましたねえ、ここに」
「日課ですから」
「ここで天気の話をするのが日課ですか」
「あなたもでしょ」
「そうです」
「天気以外の話になると、揉めます。揉めなくても、意見が合わなければ不快だ」
「いえいえ、そういうものでしょ」
「それにあなたのことは好きではない。だから天気の話しかしません」
「まあ、そう言わないで、この喫茶店での朝会、メンバーはもうこの二人しか残っていないのです」
「作田さんも亡くなられたのですか」
「生きていますが、最近出て来られない。年でしょ。それに雨の日、あの人は来ない」
「馬田さんは」
「馬田さんは神経痛で足が痛いようです。寒くなってからは来られない。春まで来ないでしょ」
「もっといたでしょ」
「いましたが、今はもう二人です」
「じゃ、もうこの会は解散ですか」
「いえいえ、私が決めるわけには」
「私もです」
「ところで、あなた、明日来ます?」
「はい、あなたは?」
「来ます」
「じゃ、存続ですねえ」
「しかし、相性の悪い二人が残りましたなあ」
「じゃ、もう辞めますか」
「いえいえ」
「やはり来ると」
「はい」
「どうして」
「日課ですから」
「ああ、同じだ。そこでは意見が合う」
「はい」
 
   了



2016年12月17日

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