小説 川崎サイト



本気で真剣

川崎ゆきお



「君は本気を出したことがあるのかね」
「いつも本気ですが」
「じゃあ、もう少し真剣に仕事をやってもらわなければ困る」
「真剣ですが」
「そうは見えん」
 店長は今日こそ言ってやろうと沖田に注意をあたえている。それは真剣そのものだった。
「そうなんですか……困ったなあ」
「気持ちを切り替え、本気を出してもらいたい。いいね」
「だから、出しています」
「怒るよ」
「そう言われても……」
「本気で仕事に取り組んでいないのは、君の態度を見れば分かるし、他のスタッフも言ってる」
「誰がですか」
「それは言えん」
「誰だろう。みんなとは仲良くやってるはずですが」
「君がそう思っているだけで、仲良くとは感じていないかもしれんぞ」
「そうかもしれませんが」
「他のスタッフの溌剌とした態度を見ていないのか」
「あれは演技でしょ」
「演技?」
「店長がいないときは普通ですよ」
 店長は少しショックを覚えた。
「しかしねえ、君よりみんなは真剣だ。本気で仕事をしてる」
「そういう振りをしているんですよ。真剣に見えるような演技ですよ」
「君の解釈は不健康だ。いや不健全だ」
「そうなんですか」
「君もみんなと同じペースで働いてくれ」
「あの演技をするのですか」
「演技じゃない」
「じゃあ、どうして店長がいないときは素に戻るんでしょうね。真剣で本気なら、戻らないでしょ」
 沖田は言い過ぎたことを反省した。
「素に戻った奴を教えてくれないか」
「いいですよ」
 沖田は複数の名前を上げた。
「山崎もそうなんか……」
 店長は怒りを覚えた。
 山崎は店長候補だった。
「じゃあ、本気で真剣にやっているのは誰と誰だ」
「僕一人じゃないですか」
 店長は沖田の解釈にはついていけないようだった。
 
   了
 
 
 


          2007年4月6日
 

 

 

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