小説 川崎サイト

 

塩崎の洋館


 塩崎は少し山手の町だが、海と山が迫っており、この海峡近くの町は何処も山手にある。市街地から郊外に出る手前だ。そこが境界線ではないが、塩崎の町はそこから少し山に入った所で、静かな場所。
 明治時代、居住地が海岸沿いにあり、その別荘のような感じで、塩崎にも洋館が建っていた。今はその殆どはない。当時は塩崎村で、海もよく見える高台の村。海岸には港はない。
 要するに外人好みの場所で、ここに多くの外国人が住んでいたが、今、残っているのは高台にあるこの塩崎だけ。
 貿易会社の支配人が住んでいたらしいが、数年で帰っており、その後は村の人が住んでいた。塩崎の町にも外人はいるが、居留地時代の人達とは別。
 裕福な外国人は、今も残るその洋館を欲しがったが、村人が手放さない。
 それは塩崎村の時代からの権力の象徴のようなもので、いわば城なのだ。しかし別荘として建てられたため、城のような形はしていないが、二階建ての農家よりも高い。
 歴代のこの村のヌシのような家がある。それが複数あり、ヌシが変われば村長も替わる。市町村区分では、白石市塩崎町になる。塩崎の地名は漁村ではなく、塩を作っていた時代の名残。そして塩崎の有力者は塩崎町止まりで、白石の市長は出ていない。市会議員はいる。これは確実に当選する。
 塩崎村時代から大きな家が複数あり、それがやり合っていたのがいけない。それだけ分散してしまう。
 今、この塩崎町のトップは増井家で、市会議員。しかし毎回入れ変わる。未だに三家か四家が争っているためだ。
 注目すべきことは、村、今は町だが、そこのトップになると、例の洋館が公邸になる。勝手にそんな仕来りができたのだろう。そのため、同じ人が住んでいない。入れ替わり立ち替わり変わる。
 当然、ここまでお膳立てしたので、幽霊の一つや二つ出ないとおかしい。そのため、五つや六つほど出る。
 居留地別荘時代の外国人貿易商の支配人が建てた洋館だが、それとは関係なく、もっと和式の幽霊が出る。
 洋館には合わない和風の幽霊で、これは塩崎村時代から続く抗争と関係するのだろう。
 恨み、怨まれ、また恨み……を、この村ができたころから続いている。その頃の犠牲者だろう。
 持ち主が変わると、それに合った幽霊が出る。当然町のヌシの家系が変わると、今まで出ていた幽霊は出なくなる。
 そういった因縁付きの洋館で、しかも明治中頃の古い建物なので老朽化が進み、取り壊されて当然だが、村のトップがそれを許さない。ここに住むことが象徴のため。
 今の塩崎のど真ん中にあるのだが、鬱蒼とした木々に覆われ、外からは建物そのものがよく見えない。当然撮影禁止。また、文化財的価値はあるのだが、調査させない。
 しかし、この高台の町も宅地化が進み、町も綺麗になったのだが、あの洋館のある中央部だけは、まるで古墳のようにこんもりとしたまま、今も残っている。
 
   了


2017年1月4日

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