小説 川崎サイト

 

裏聖天


「正月はどうされていましたか」
「毎年、初詣に出ています」
「近所ですか」
「いえ、遠いです」
「じゃ、大勢の人で賑わう場所ですね」
「賑わいません」
「ほう。じゃ、わざわざ流行っていないような神社を探してお参りに行くのですか」
「はい、それに近いです」
「何処の神社ですか」
「妙見山近くです」
「妙見さんは確かに山の上にあるので、遠いですが、ケーブルもあるし、結構賑わってますよ」
「だから、その近く」
「他にありましたか」
「妙見さんとは関係はないのです」
「妙見さんの奥の院とかではない?」
「妙見さんは山頂にありますから、それ以上奥といっても、もう上には行けない」
「妙見さんは星の神様でしたか。北極星の」
「それとは関係ありませんが、その眷族のようなのが北斗七星。その七つの中の一つをお祭りしているのが、私が行く場所です。他の六つはありません。一つだけです。しかし、これは表向きで、実は違うのです」
「話がややこしいですねえ」
「ですから、妙見さんの近くにあるので、一応それを意識して、妙見さん関連の神様としているだけです。得体の分からない神様じゃ、表向き、不味いので」
「何処にあるのですか」
「妙見山の裏側にある小さな山に挟まれた谷にあります」
「神社名は」
「ありません」
「表向き、あるのでしょ」
「聞かれたら、そう答えるだけです。妙見関連だと」
「じゃ、何です。何を祭っているのです」
「聖天さんです」
「別にそれなら隠す必要は」
「普通の聖天さんも怪しいですがね。御神体は象さんですから。それなら何とかなりますが、裏聖天なのです」
「はあ」
「男女合体の象の像ですが、裏聖天さんは男と男、女と女となりますが、さらにもっと危ない組み合わせがありますが、ここでは言えません」
「はい」
「それら怪しげな組み合わせの象の像が祭られています。二体で一体ですが、そのペアやトリオが何組もある。従って一つ一つの御神体は小さい」
「はあ」
「当然それは門外不出。参拝者は正月にだけ少しだけ見せてもらえます。ご開帳ですね。それを私達は裏昇天祭と呼んでいますが、それを隠すため、妙見菩薩系を前面に出しています」
「凄いところへ初詣に行くのですねえ」
「聖天さんは神様ですが、仏教でも神道でもありません。また、ヒンズー教でさえない。それ以前の土着の信仰です。こちらの方が荒々しく、そして生々しく、エネルギーに満ちています。これを北極星の妙見さん近くに置くことで、パワーは倍。まあ、そういうことです」
「御利益はありましたか」
「普通です」
「あ、はい」
「しかし、初詣として、変わっているでしょ。ありふれていない」
「それだけですね」
 
   了



2017年1月7日

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