小説 川崎サイト

 

鳩が出た


 いつも持ち歩いているものをなくすことがある。それがライターやボールペン程度なら問題はない。被害は百円ぐらいで、尾を引くような話ではない。しかし、ボールペンが今すぐにいるとき、なくしていると、使えない。そういうシーンは滅多にないが、何等かのメモを取るとき、ペン類が一切ないと、暗記しないといけない。それが書かれたものなら、それをスマホなどで撮せば事足りるが、写せないような場所だと無理だ。このときは必死で暗記するだろう。そして忘れてしまうと、もの凄く困るようなこともあるかもしれない。
 財布をなくす。ケータイなどをなくすと、これはかなり面倒なことになる。財布の中にカード類、免許証などが入っていると、かなり尾を引く。決して大損をするわけではないが、財布なので、当然現金も入っている。それは大した額でなければ、少し困る程度でいい。
 そしてなくした場合、どうしてなくしたのかを思い出す。一番最初に思い付くのは落とした。取られたなら、原因ははっきりしている。スリにすられたのなら、すられたことも分からなかったりするので、謎のままだが。
 岩田はライター程度の大きさのある端末をなくした。いつもは鞄の中の小袋に入れている。鞄はなくしていないので、鞄の中にあるはずなのだが、その端末、通信端末で、パソコンからインターネットに繋げるもの。これがないと、外ではネットができない。ライター程度の大きさのUSBだ。少し太った小魚程度。
 これを契約してから二十年近い。端末は何度か切り替わっている。最後の端末になってからはあまりネットに繋がなくなったので、解約してもいいと思っていた。それに今はそんな端末など使っている人は少ないし、またその会社名もよく変わり、今は大きなネット会社の下で、細々とやっている。
 この端末、何度もなくしているが、すぐに見付かる。それで本気で探さなかった。殆ど使っていないためだ。
 しかし、ある日、町に出たとき、すぐにでも欲しい情報があった。大事なことではないが、ネットで調べれば詳細が分かる。それを見たい。その端末をなくしたことをそのときやっと気付いたのだが、鞄を変えたとき、入れ忘れたのではないかと、そちらを考えた。しかし、鞄の中には小袋が入っている。端末はいつも小袋に入れているので、そこにあるはずなのだが、ない。
 たまに小袋に入れないで、ライターのようにポケットに入れてしまうこともある。形が似ているためだろう。そうなると、ポケットが臭い。最後に使ったとき、ポケットに入れたのだ。それは一週間ほど前だと思う。通信端末を最後に使ったのも、その頃。
 当然いま着ているポケットを調べたが、ない。
 一週間前、何を着ていたかだ。最近着た上着は二着か三着。これは調べれば分かる。一週間前何を着ていたのかの記憶はないが、残る二着のはず。
 しかし、二着ともポケットの中は空。ティッシュと一円玉が出てきた程度。ライターを入れるようにポケットに入れたので、内ポケットに入れた可能性はない。念のため、二着の全部のポケットを見たが、ない。
 ライターと同じ扱い。これがポイントとなり、外から戻ってきたとき、ライターはどうしているかと思い出すと、煙草と一緒にその辺に置く。その置き場所はほぼ決まっているが、置き場所が雑然としており、しかもポイと投げるように置くので、たまに遠くへ飛んでしまうことがある。そういう飛び方をしたライターが何個もあるが、それはすぐに分かるので、見付け出して使う。
 それで、岩田はライターを探すように、その辺を探すが、なくしたライターが出てきた程度。
 次は鞄だが、これは真っ先に調べた。最近新しい鞄を買っており、前の鞄の中に残っているかもしれない。だから当然探したが、出てこない。鞄はよく変える。その前に使っていた鞄かもしれないと思い、それも調べるが、ない。
 たまにしか使わない端末だが、料金は払っている。今度は使わないのに払うことになる。岩田は解約の方法をネットで調べると、電話の案内に従えば、すぐにできるらしい。窓口へ行けばいいが、ケータイ屋のように近所にはないのだ。
 それに、その端末には電話番号のようなものがあるらしい。さらに暗証番号や、機種の番号なども必要となると、ものがないので、何ともならない。またユーザー番号のようなものも分からない。請求書や、支払ったこと伝えてくるハガキは、経費節約で来なくなっている。だから、何も分からないが、名前を言えば全部分かるだろう。
 それも面倒なので、今度じっくりと探してみることにする。次に臭いのは落としたかもしれないということだ。また、最後にネットをしたときに入った喫茶店で忘れたか。まだ、可能性は残っている。
 そして、家捜しのように、部屋の中で探しまくったので、それなりのことはしたと思い、一旦忘れることにした。もう部屋の中で探すような場所はない。
 以前もなくしたことはあるが、簡単に見付かった。今回もそうなることを望みながら、試しに前の鞄に手をつっこんでみた。大きなトートバッグだ。中のポケット類を何度も見たので、入っているわけがない。しかし、前回のように簡単に見付かり、ああ良かったとなりたい。たとえば、今その鞄の中に手を突っ込めば、すっとその端末に触れていたりとか。
 岩田は試しに、それをやってみた。こういう風に簡単にいつも見付かっていたなあというのを思い出しながら。
 そして手を突っ込むと端末を握っていた。嘘のような話だ。
 トートバッグの底にあったのだが、その上に眼鏡拭きが乗っていたのだ。フワッとした柔らかい生地で、汚れているので、底に放置していた。
 この底も何度も手を当てたのだが、気付かなかった。
 いつもならこういう風に出て来るというのを試しにやると出てきた。まるで手品のように。
 
   了

 


2017年1月9日

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