小説 川崎サイト

 

感染性貧乏


 高田は福引きで、福を引き当てた。景品ではなくサービス。旅行などではなく、福の神が当たった。
 下田は神社でおみくじを引いた。これが一番安く付く。すると大凶ではなく、貧が出た。当然その場ですぐに貧乏神が憑いた。嫌なものを背負ったものだと思うものの、ただでさえ貧乏なので、あまり差はないような気がした。しかし、貧乏から極貧へと落ちた。
 高田も下田も大したことはしていない。つまり、福引きとおみくじだ。下田も福引きをやればいいのだが、何か買わないと、福引き券がもらえない。買い物はしたが、福引き券がもらえる額には達していなかった。
 福の神を得た高田はさらに豊かになり、何の心配もなく、楽隠居になった。この福の神は強力で、金銭的なことだけではなく、あらゆる方面で福をもたらせた。
 そして老年に差し掛かっても、下田は極貧から普通の貧乏に這い上がるため、極貧の海を泳ぎ続けていた。年取ってからも仕事をし、また病気や怪我に悩まされた。高田のような幸せな老後は来そうにない。
「来たか貧乏神」
 下田が背負っている貧乏神ではなく、下田が来たのでそう呼んだ。どう見ても、下田そのものが貧乏神に見えるためだ。
「どうしても厳しくて、金を貸してくれないか。もう頼めるのは、君しかいないんだ」
「そんなことだと思っていたよ。余程困っているんだな」
「ああ」
 高田は金を貸した。大した金額ではない。
「恩に着るよ」
 高田にとっては拾ったような福。何の努力もしていないのに、福の神が来たのだから。
「まあ、何もないけど、ご飯でも食べていきなされ」
「はい」
 下田は食べたこともないような鯛の天麩羅を御馳走になった。当然、酒も。
 知人が困っているのだから、当然だろう。また困ったら来なさいと言って、土産まで持たせた。下田が来たのは、これが最初で最後。
 下田は有り難く頂いた。
 その後、高田は没落し、下田は裕福になった。
 何が起こったのか。
「あなたが下田さんを家に入れたからよ」
 高田の奥方が、今はもう長屋の婆さんになっているが、ぼやきだした。
 原因は貧乏が感染したのだ。実際には入れ替わったのだろう。
 
   了





2017年1月24日

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