小説 川崎サイト

 

さぬきの森戦記


 さぬきの森は自然が豊かで、色々なものが棲息している。季候もいいし、雨もそこそこ降る。さぬきの森の戦いというのがあり、それはこの森を侵しに来た人々との戦いだ。値打ちのあるような鉱物が出るわけではないが、山々に囲まれてはいるが結構広い。ただ、田畑はなく、人も住んでいない。しかし、何かが棲息している。
 そのため森、これは山に近いのだが、そこを侵す者が昔からかなりいる。別に立ち入っても何も起こらないが、森を傷つけると祟りのようなものを受ける。そのため周辺の村落の人達はここでは狩りもしないし、木も切らない。一種の聖域として扱っているのだが、特別な神がいるわけではない。
 しかし、さぬきの森は戦いが多い。里人から見ると森を守るための戦いに見えるのだが、違う見方をする人もいる。村の神社の巫女で、もうお婆さんだが、この人が独自の見解を持っている。
 古い戦いでは、この地方の土豪が森に攻め入った。攻めるも何も、人などいないのだから、無人の森。そして大した資源もないし、奥まった場所にあるため、領地としてのメリットも少ない。
 この戦いの起こりは、その土豪の兵が偵察で森を抜けようとしていたときだ。森を抜けると、隣国の裏側に出る。つまり、裏から攻め入るため、ここに出城を築こうとした。そのとき、訳の分からないものに兵達は襲われた。
 これが戦いの発端で、土豪とはいえ、かなりの兵を持っており、森を攻めた。このときは互角の戦い。相手は人ではない。化け物だ。しかし、それほど強いわけではなく、特殊な攻撃をするわけでもない。
 その戦いは長期に及び。流石にその頃は、その土豪の勢力も衰退していたので、戦いは終わった。
 次の戦いも似たようなものだ。
 里の人達は森の者達が森を守るための戦いだと言っているが、老婆の巫女は違う意見。結構誘い込んでいるらしい。つまり、ただ通過しているだけの人には別に何もしていない。
 歩いているだけ。木の枝などを払いながら進む程度。実っている果実などを食べる程度。森に対して、もの凄いことをしていないためだろう。逆に通り行く兵に先に手を出すのは、この森の棲息者で、襲ってくる。しかもそれほど強くはないので、押し返すことができる。怖くて逃げ出すほどのことでもない。
 つまり引き金はさぬきの森側からで、巫女によれは好戦的な連中らしい。実は戦いが好きなのだ。だから、戦士が入ってくれば大喜び。
 里人はさぬきの森には神々に近いものが住んでいると信じているので、迂闊に近付かない。
 ある時期、周辺の村々が大きな勢力から攻撃を受けた。それら村々の寄親のような領主に力はなく、村人だけで戦わなくてはならない。村人達はさぬきの森に救援を求めた。しかし、相手は人ではない。コミュニケーションが取れないし、それ以前にコンタクトできない。
 例の老婆の巫女の先代に当たる巫女が、その役を引き受けたのだが、森の隅々まで探しても、何者とも遭遇しなかった。
 そして、村々は大きな勢力に一気に占領されたのだが、領主が変わっただけの話。そして勢いに乗った新領主は、大勢でさぬきの森を攻めた。化け物がいるという噂を聞いたからだ。
 このときの戦いは長期に及び、新領主も流石に疲れ果てたようで、撤退した。
 要するに、この化け物達は森で戦うのが好きなのだ。
 これはさぬきの森の昔話で、全て作り話だろう。その証拠に、今もさぬきの森はあるが、里からも近い国有林のため、当然植林され、昔のままの手付かずの森ではなくなっている。
 
   了


2017年2月9日

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