小説 川崎サイト

 

休館日


 下田はいつもの道を走っていた。その先にいつもの場所がある。そして通路の入り口が見えたとき、いつもと違う印象を受けた。ここへは年中来ている。毎日欠かさず来ている。台風などで外に出られない日は別だ。そういう日は家からも出られないが、嵐がましになれば出る。
 通用口は屋外にあり、公園の入り口のようなもの。車が入れないようポールが何本も立っている。これは歩行者や自転車、バイクなどは自由に通れる。そこに線のようなものが見えるのだ。毎日見ている場所なので、この変化はすぐに分かった。その線は横に走っている。閉鎖されているのだ。その手前に人が何人かおり。話しながら通り過ぎた。
 下田は近くまで寄って確認する前に謎が解けた。年に一度だけショッピングモールの休館日なのだ。当然建物だけではなく庭や通路など、敷地内一切が閉鎖。通路を入るとすぐにバイク置き場と自転車置き場があり、広々とした庭があり、梅や桜や椿が植えられ、竹もある。ちょっとした庭園だ。そこを抜けると道路に出る。これは駐車場への出入り口だが。本館は川を渡ったところにあるが、その周辺も公園になっており、川沿いにはベンチがあり、施設と施設を繋ぐ高い橋もある。さらに橋の上にも橋がある。建物の二階と二階を重ねて繋いでいるようだ。
 年に一度休館日があることを下田は知っており、その日も知っていたはずなのだが、忘れていた。その日が近いことは分かっていたのだが、今日だとは思っていなかったので、入り口の封鎖に驚いた。予備知識があるので、どういうことなのかは一秒もかからないうちに判明した。
 下田はこのモールの二階にある隠れ家のような喫茶店に通っており、そして、安いパン屋でサンドイッチを買うことを日課にしていた。当然店屋ばかりなので、家電を見たり、服を見たり、何かの出店を覗いたり、煙草を買ったりしている。つまり、その日は商店街が休みのようなものだが、この施設は年中無休。そのため、定休日がない。だが、施設内の総点検などで年に一度だけ休む。その日は決まっていない。毎年冬の寒い頃、一年で一番客が少ない日を選んでいるようだ。
 下田はすぐに別の道に入り、施設を回り込むように、正面側の入り口にある大きな通りに出た。その先に一番近い喫茶店があるためだ。とりあえず休憩したい。
 正面入り口は広く、そして道沿いに長く続いている。自転車屋や中華のチェーン店やファストフード店などが見えるが、いずれも休んでいる。それらテナントが休みになるのは、この日だけかもしれない。そのため定休日がないし、シャッターを閉めている状態も見たことがない。夜中なら見られるかもしれないが。昼間から閉まっているのは年に一度。今日だけ。
 一般道路から間違って施設内に入ろうとする車がいるのか、整理員が出ている。鎖が張られているので、見れば分かるはずだが、歩道を越えないと入れないため、歩道に寄って来る車があるのだろう。
 車道の横に歩道。そして入り口、そして建物。その間のスペースは自転車置き場で、放置された自転車が結構並んでいる。営業時間を過ぎると、鎖が張られ、自転車が出せなくなる。
 下田は何とか入り込めないものかと妙なことを考えた。中は無人ではないはず。空調とか配電関係、そういうメンテナンス、防災関係や非常ベルなどの点検をやっている人がいるはず。
 整理員は駐車場の入り口に一人いるだけ。これは無防備だ。しかし、休みの日のショッピングモールに入り込んでも何も買えない。盗人なら別だが大したものは置いてないだろう。
 下田は施設内に入る方法を知っている。それは猫の道だ。この施設の中央部に小さな川が流れているのだが、その川から入れる。さすがに川は閉じられていない。そんなところを通る人もいないし、道もない。しかし川の中を歩けば通れる。猫が川底の縁を通って施設内の公園まで来ているのを見たことがある。えさをくれる人がいるためだ。
 川から攻めればこの城は落ちる。と下田は考えただけで、さっさとその前を通り、予備の喫茶店へと向かった。
 
   了

 


2017年2月26日

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