小説 川崎サイト

 

龍の目覚


 何かよく分からないまま日々を過ごしている立花だが、ぼけたわけではない。まだ中年に差し掛かったばかり。
 しかし若い頃からボーとした性格で、意思が薄い。意志薄弱という症状ではないが、自意識が低いのだろう。それで何となく中年まで来てしまった。性格は大人しく、従順。
 しかし、ここにきて龍が目覚めたのか豹変した。龍ではなく豹だ。つまり人変わりした。まだ人だが獣、ケモノ、ウロコモノに近い。
 霊獣、聖獣ならいいのだが、そのレベルではない。立花はそれに気付いたのだが、目立った症状はない。毛が増えたとか、ウロコが付いたとかもない。ただ、自覚がある。それがなければ気付かないだろう。
 その自覚とはためらわずに前に出る気が生まれたことだ。そして突き進む強靭な意志があることも。いつもなら優柔不断で、何かよくわからないまま流されるように生きていたのだが、今はしっかりとした意志がある。この違いは大きい。ためらわず突き進む。躊躇しないで食いつく。
「何か悪い薬、飲んだ」
「飲んでない」
「自覚だけがある?」
「そう」
「実行は」
「ない」
「お茶とコーヒー、どっちにする」
「えーと」
「じゃ、お茶にする」
「うん」
「龍は出ていないようだね」
「自覚だけはあるけど」
「龍が出てくるようなゲームとか、していない」
「していない」
「あ、そう」
「春先だからね」
「花粉症のようなもの」
「えっ」
「季節の変わり目だと、そんなことがあるのかもしれないよ」
「そっ、そうか。そうだったのか」
 龍は目覚めたが、起きあがらなかったようだ。
 
   了




2017年3月16日

小説 川崎サイト