無駄な領域
古い慣わしがなくなりスッキリとしたのだが、高田はどうも物足りない。いつもならもっと時間がかかるはずで、その時間を過ごすのが面倒だったのだが、最近はそうとも言えないと思うようになった。
意味のない、もったいぶった時間や手間にも意味があることに気付いた。これは勝手なもので、ないものねだりの物足りなさかもしれないが、その無駄が妙に懐かしい。昔は良かったという話ではなく、無駄が良かったのだ。
無駄なスペース。無意味なもの、ただの飾りや装飾。それらのものは無意味なものではなく、深い意味があるのだが、機能性がなかったりする。それらのものがなくてもやっていけるためだ。
これは機能美とは違う。機能していないのだから、ただの美。だから美だけがそこにある。アートがなくても実用上困るようなことはない。
しかし、あったほうが雰囲気が出る。またアートには指し示している方向性がある。サインやシンボルだ。だから目印になる。そこはどんなシーンなのかの概略のような。
高田が物足りなさを感じるのはそこだが、それとは別に無駄な動きがしにくくなるのが気に入らない。早くて適確なのはいいのだが、もう少し曖昧なスペースがあってもいい。テンポが早いと忙しい。じっくりと噛みしめながら進むわけにはいかない。さっさと進めばいいのだが、それでは味気ない。噛むことで味が出る。
「ほう、高田さんも無用の用に目覚めましたか」
「はい、無用ノ助です」
「無用の助けですな」
「そうです」
「無駄にも効用があると」
「無駄話がそうです」
「無駄なのに」
「いえ、無駄話をしているときに、相手のことが何となく分かります。どういう勢いの人とか、どんな進め方をする人とか」
「では、無駄は」
「無駄なことなど、世の中にはないとか言いますが、これはまだ断定し切れません」
「断定」
「その効果が本当に出ているのかどうかを確認していないからです。無駄だと思いたくないだけかもしれませんし」
「しかし、無駄なことがあるから、その後が違ってくるはずですよ」
「たとえば?」
「無駄働きをしたとき、それは一文の得にもなりませんし、また無駄な動きなので、時間も頭も体力も無駄遣いしたことになりますが、無駄ではないことをしたとき、値打ちが違ってきます」
「はあ?」
「悪いことばかり続いたあと、良いことがあると、もの凄く光るでしょ。そういうことです」
「じゃ、やはり無駄は無駄なのですね」
「そうです。しかし、無駄の効用もあるということですよ」
「無駄に人生を過ごしてきた、とかはどうですか」
「本人にとっては無駄だと思っているかもしれませんが、その人の無駄な行為が、誰かを助けているかもしれませんよ」
「捨て石のような」
「さあ、色々なパターンがあるでしょう。まあ、無駄は遊びです。それがないと建物も倒れます」
「しかし」
「はい」
「この話も含めて、これも無駄話なのですよ」
「そ、そうでしたね」
了
2017年3月22日