小説 川崎サイト

 

春うらら

 
 春うららで、頭もうららになりそうな高田だが、最近用事が多く、のんびりとしてられない。去年の今頃を思い出すと、頭はうららだった。その前の年も似たようなもので、うららかな日々を春だけではなく年中過ごしていたように思う。
 忙しくなったのはうららかすぎるためだろうか。やるべき用事を溜め込んでしまったわけではなく、酔生夢死状態から妙な世界に入ることができたため。そこへ行きだしてから用事が増えた。当然それは現実のリアルな場所ではない。ここと重なるようにしてある町だ。また町の規模は分からないが、木造の家が地平線の彼方まで見えている。山もなく、瓦屋根が続いているだけ。その二階屋から下を見ても、限りなく家々が続いている。こんな広い場所は江戸の町でも京の都でもないだろう。山が見えないのだから。
 それらの家々はほぼ無人。誰も住んでいないが、廃屋ではない。偶然家の者が出掛けて留守程度。
 これだけ家があるのだから、人がいるはずだと思い高田は一軒一軒見て回った。その中に一軒の庭先に人がいた。高田より年寄りだが、服装は少しだけ違う。何十年か前に流行ったようデザインだが、今もそれを着ている人が多い。デザインの基本は何十年前とはあまり変わらないのだろう。定番の服かもしれない。これが時代劇に出てくるような着物なら、少し引いてしまうが、それほど遠くはなさそうだ。
 高田が忙しくなったのは、その老人から用事を頼まれるため。珍しい上着や、軽い靴などが欲しいとか。
 この町に服屋はないのかと聞くと、あるにはあるが、古着屋だという。他に店屋とか住んでいる人はいないのかと重ねると、いたりいなかったりするらしい。そして殆どの家々には人が住んでいるが、高田が見た限り、いなかったので、それも重ねて聞くと、そういうものだという返事。説明にも何もなっていない。
 高田は来た方角へ歩いて行くと、自然に元の世界に戻れる。戻ったときも歩いており、それは近所の道だったり、少し離れた商店街の外れただったり、公園の横の道だったりする。
 用事は、あの老人からの頼み事だけではなく、その他の人々からも色々と依頼される。どこそこの町のどこそこの家の人達は今どうなっているのか、見て来て欲しいとか。
 これはきっと高田の頭がうららかになりすぎて、そういう世界に行けるようになったのだろう。
 だから、最近の高田は忙しい。
 
   了

 


2017年3月28日

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