小説 川崎サイト

 

引っ張る男

 
 矢島は溜まっていた用事を終えたのでホッとしていた。一段落も二段落も済み、もう忙しい思いをしなくてもいい。しかしその間も、好きなことはやっていた。用事の合間だが、その合間が長いどころか、本当の用事はさっと済ませていたので、時間的には好きなことをしていた方が長かった。
 その用事は複数あるのだが、さっとやれば、さっと終わるようなことだったが、それなりに時間はかかる。そこ間が嫌だったので、分散させていた。その為、長い期間に渡り、嫌なことをし続けることになる。一週間で済むことを二ヶ月もかけた。
 嫌なことを一日中やるのが嫌だったのだろうが、逆に嫌なことを引っ張り続けたことになる。これは好きなことを分散させるのとは逆。
 そのため、好きなことをやっていても、それほど楽しめなかった。しかし嫌なことを分散させたので、ものすごく嫌な目には合わなかった。反面、手放しで好きなことを楽しめなかったが。
「どちらがいい」
「何が」
「分散させるか一気にやるか」
「さあ」
「分からない?」
「そんなこと考えたこと、ないから」
「あ、そう」
「それが何か?」
「いや、いい。思い当たらないのなら」
「時間の使い方の話かな」
「ああ、そのカテゴリーだ」
「時間というより、スケジュールの立て方かな」
「嫌なことを分散させることで軽くなる」
「でも、嫌な期間が長くなるでしょ」
「それそれ、さっきからそのことを言ってるんだ」
「僕なら嫌なことは一気にやってしまうけど」
「それは一般的すぎて、当たり前すぎる」
「そうなの」
「それでは嫌なことの緩和にはならない」
「緩和?」
「嫌なことは可能な限りしたくない。そしてどうしてもやらないといけないときは、軽減策を考える。その一つが分散化だ」
「他には? 残りの三つか四つは」
「それはまだ発見していない。君に何か良案があるかもしれないと思い、聞いてみたんだ」
「そんなのないよ。やるだけのことだよ」
「あっそう」
 矢島はやっと嫌な用事から解放されたのだが、数日も立たないうちに次の嫌な用事が入ってきた。だから安心して好きなことができたのは僅かな間だった。引っ張りすぎたのだ。
 
   了
 


2017年3月30日

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