小説 川崎サイト

 

蠢動

 
 虫より大きい竹内氏だが、その人柄は虫ほどに小さい。腹も小さく、けつの穴も小さく、胸も懐も浅い。しかし、春になると蠢き出す。蠢動だ。
「竹内氏が何やら策動しておるようですが」
「取るに足りぬ動きじゃ、虫のようなもの、無視してよろしい」
「はい、しかし多少は影響を及ぼすかと」
「一体、今回は何を企んでおるのじゃ」
「同盟です」
「何の」
「さあ、よく分かりませんが、同志を募っています」
「以前にもそのようなことがあったのう」
「毎年です」
「それで竹内は何がしたいのじゃ」
「竹内氏は同志を集め、勢力を作りたいのでしょう」
「しかし、数が知れておる」
「そうです。そのため、同志も集まらず」
「集まってもたかがしれておる」
「そうです」
「前回はどれぐらいの同志を集めたのじゃ」
「二人」
「竹内を含めてか」
「いえ、竹内氏以外にあと二人。合計三人」
「同調したその二人は誰と誰じゃ」
「士分ではありません」
「そうだろうなあ」
「しかし、士分ではありませんが、商人です」
「何屋じゃ」
「白木屋と、青峰屋です」
「大した商人ではない」
「先物買いでしょ」
「まあ、見て見ぬふりをすればいい。余計な手間になるので、関わらぬこと」
「ぎょい」
 今回は白木屋が潰れ、青峰屋は夜逃げしたので、商人の同士はいなくなったが、家老の従兄弟の娘婿の叔父という人が同士に加わった。役職はなく、菩提寺で字を教えている。
 この三村秋ノ丞は癖のある人で、字も癖字なのに、子供に読み書きを教えている。
 三国志などを読み過ぎたのか、英雄癖がある。これが悪い癖。まんまと竹内氏の尻馬に乗ってしまった。しかし、半ば冗談だと、最初から思っている。今年の同士はまだ誰もいないので、秋ノ丞は幹部になれる。
 早速家老の屋敷から秋ノ丞に使いが走り、恥ずかしいまねはやめるようにとの命。遠縁過ぎて、縁などないようなものだが、この家老に繋がる人間だけに、迷惑だったようだ。
「はい分かりました」
 これで、三村氏の今年の蠢動は終わった。
 
   了


2017年4月7日

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