小説 川崎サイト



過去への返信

川崎ゆきお



 昔使っていたノートパソコンが出てきた。いきなり現れたわけではない。道具部屋を掃除している時に見つけたのだ。
 小林はなぜこんなところに投げ込んだのかを思い出した。
 それはノート型の小さなパソコンだが、一般的なパソコンではない。メールの送受信やホームページを見ることもできたが、一般的なパソコン用アプリケーションを入れることはできなかった。
 幸いコンセントを差しっぱなしで放置していたので、起動した。
 見慣れない画面が立ち現れた。
 しばらく見ていなかったためだろう。徐々に思い出した。
 道具部屋からいつもの書斎へ運んだ。
 そして作っていたファイルを探したが、日記とかメモのファイルが見つかる程度だった。
 貴重なファイルがあれば、コピーしているはずだ。ファイルを開けると、既にコピーしたファイルばかりだった。
 もう使うことはない機械だが、こうして動いているのだから、捨てるのは惜しい。と、いって使う気にはなれない。
 実際、この機械を使う用事はその後なかった。
 小林は今度こそ捨てる気で、コンセントを抜こうとした。
 念のためメーラーを見る。このノートオリジナルのメーラーが入っていた。
 受信箱を見た。
 メル友とのやり取りの残骸が残っていた。
 送信済のフォルダーに、小林が書いたメッセージも残っている。
 どのメル友の名前も過去のもので、覚えていない名前もある。
 メールだけでのやり取りを数カ月続けた程度では記憶に残らないのだろう。
 その中に記憶にある名前が見つかった。
 リアルでも知っている名前だった。
 仕事先で出会った女性だ。
 彼女からの最後のメールが受信箱に残っていた。その日の日記のようなメールだ。それに対する返事を小林は書かなかったようだ。そこでメールのやり取りは終わったのだろう。
 受信日から十年近くなる。
 今頃返信はできないだろう。
 その後、仕事先で彼女と出会うこともなかった。もう別の人生をおくっているはずだ。
 だが、小林は過去へワープするように、返信した。
 しかし、もうそのメールアドレスは使われていないのか、送信できなかった。
 
   了
 
 


          2007年4月18日
 

 

 

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