小説 川崎サイト

 

好きにする

 
 上手くいかないときは方法を変えてみる。よくあることだ。しかし、上手く行き出すと、それが当たり前になり、標準となる。いつもの方法で、という感じだ。
 その標準を長く続けていると退屈するわけではないが、飽きてくる。多少方法を変えても同じ結果が得られるのなら、飽きたところで、別の方法に代えたりする。余計なことだ。
 また、いつもの方法でも上手くいくはずなのに、調子が出ないことがある。これは長く続けているとよくあることで、方法が間違っているわけではない。それを方法のせいにして、別の方法でやる。すると、上手くいく。これは目先を変えただけで、その変化で何となく先へ進めるのだろう。
「つまり、駅へ行くのにいつもの道ではなく、違った道を通るようなものですか」
「そんな感じです。いつもの道というのは駅への最短コースになる場合が多いですねえ。そしていつの間にかそのコースばかり通るようになる。これは時間を優先させるためです。散歩じゃありませんから」
「じゃ、別の道にすれば遅く着いてしまいそうですが」
「少し早足で歩けば大丈夫です」
「そのメリットは」
「少しだけ新鮮です」
「それだけですか」
「実は駅までの最短距離は他にもあるのです。しかし交通量が多いし、歩道がない。だから本当に急いでいるときは、そこを通ります」
「ところが」
「はい」
「特に問題のない場合の方が危険なのです」
「問題がないのでしょ」
「問題がないことが問題」
「ほう」
「それで少しハンディになりますが、別の方法で行くこともあります」
「変化が欲しいからですか」
「ずっとやっていますとね」
「はい」
「それで色々なものを変えていきます」
「そんなことをしなくても、上手くいくのでしょ」
「上手くいくことが問題なのです」
「ほう」
「それで、色々と試みます。やはりいつもの方法が一番良かったような気がしますが、それを超えるものがあるかもしれません」
「よりよい方法を見付け出すのですね」
「そうです。しかし、それを採用しても、また同じことになりますがね」
「新しい方法も標準になると、飽きると」
「ですから方法にも旬があるのです。期間がね。期間を超えたやり方でも標準になると、惰性でずっと続けるものです。それに慣れ親しんだ方法の方が安定していますからね」
「私はその手です」
「これは時代に取り残されるとか、時代遅れの方法を未だにやっているとかではなく、試みの楽しさなのです」
「余計なことのように思われますよ。だって、上手く行っているのに、違う方法を求めたりするわけでしょ」
「方法を変えると、結果にも影響します。その方法に合った結果が出がちです。だから、結果は手法の中にあるのです」
「いい結果を出すために頑張っておられるのですね」
「いい結果などが出ると、それがまた問題になります。そしていい結果が出たときは、大概はたまたまなのです。これは同じことをもう一度やれと言われてもできません。たまたまですからね。だから始末が悪い」
「まあ、お好きなようになさって下さい」
「はい、好きにします」
 
   了


 


2017年4月24日

小説 川崎サイト