小説 川崎サイト

 

隊長の体調

 
「ここは無理をしてでも一気にやりましょう」
「確かにチャンスだ」
「こんな機会は二度と来ません。今、少し頑張れば越えられます」
「今日は少し体調が悪くてねえ」
「え」
「あまり無理をしたくない」
「峠を越えることができます。素晴らしいことです」
「しかし、無理はいけない」
「では、お休みを。我々がやりますから」
「そうもいかんだろ」
「この峠を越えれば、新たな舞台に立てます。今まで叶わなかったステージに立てるのです。ここは無理をしてでもやるべきです」
「確かにいいチャンスだ。しかし、峠を越えてからだ」
「はあっ」
「新たな舞台に立てるが、それを維持する力が我々にはまだない。それこそ、日々無理をすることになる」
「それは何とかなります」
「そこまで言うのなら、やってみなさい」
「はい」
 好機を見逃さず、前に出たのがよかったのか、峠を越えることができた。これは悲願のようなものだった。
 しかし、維持するだけの力がなかったためか、徐々にずり落ち、元の木阿弥になった。
「無理でした」
「だから、無理攻めはだめだと言ったはず」
「はい」
「私はねえ。体調が悪いときは前には出ない。だから、好機であっても出ない方がいいのです」
「申し訳ありません」
 そして、次の好機が訪れたのだが、このときもまた体調が優れないということで、諦めた。
 しかし、何もないときの体調はいいらしい。
 
   了




2017年5月2日

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