小説 川崎サイト

 

行楽

 
「季候が良くなってきましたなあ」
「行楽のシーズンですよ」
「楽に行くと言うことですか。極楽とかへ」
「楽しいことをしに出掛けるということですよ」
「部屋の中でも楽しいことはありますが」
「それとは別に屋外で楽しいことをです。まあ、出掛けるだけでも楽しいでしょ」
「子供の頃はそうですねえ。お出掛けが楽しかった。しかし、今はさほどでもない」
「外歩きには最適な気候ですよ」
「外を歩くのなら、今日もやってますよ」
「気持ちいいでしょ」
「少し暑いような気がします。久しぶりに日陰に入りました」
「そんな冬の服装をしているからですよ」
「そうですなあ。ところで、行楽なのですが、極楽のような場所はありませんか」
「だから、行楽とは極楽へ行くわけではありません。それに近い場所があるかもしれませんがね」
「極楽というよりも楽がしたいのです。楽を極めたような場所」
「まあ、気持ち次第でしょ」
「まずは楽に行けることです。行くのはいいのですが、出掛けると疲れます。決して楽ではありません」
「要するに出不精ということですね」
「いえいえ、楽しいことがある場所なら出掛けますよ。しかし、そんな極楽のような場所は見つかりません。宣伝にはあっても、そんな場所じゃなかったりします」
「極楽とは見出すものです」
「ほう」
「何が楽しいのかはその人によって違いますからね」
「快適な場所がよろしい」
「はいはい。当然です」
「気持ちよくなれる場所」
「当然です」
「ありませんか」
「悪所へ行けばあるでしょ」
「そこは地獄なのでは」
「地獄と極楽は背中合わせなんでしょうねえ」
「じゃ、普通でいいです」
「そうですよ。それにあなたはいつも極楽のような場所にいますよ」
「そうなのか」
「ですから、わざわざ行楽などに出なくてもいいのかもしれませんよ」
「しかし、そんなに良い場所じゃない」
「極楽にいるときは、極楽だとは感じないものです」
「ものは言いようですなあ」
「さて、私はこれから青葉を見に行きます。今ならモミジが綺麗です」
「モミジは秋では」
「新緑のモミジが私は好きです。あの平べったくて薄い葉。あれは紅葉よりも緑の方がいいのです」
「見出してますなあ」
「はい」
 
   了



2017年5月3日

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