小説 川崎サイト

 

感情戦線異常あり

 
 下田はニュース記事を読み、憤怒した。証拠が山とあるのにしらを切る政治家。その翌日、さらに大きな証拠が見付かるが、知らぬ顔。下田は怒りを爆発させ、新聞を破った。
 さらに大きな災害があり、悲惨なことになっていることを知り、涙した。翌日の続報ではさらに被害が拡大し、その映像を見て下田は号泣した。
 翌日、連続テレビドラマを見ていたのだが、いつまで立ってもすれ違いが続き、イライラした。それで食欲がない。
 久しぶりに弁当を買いに行ったが、臨時休業となっており、シャッターを蹴った。
 そして、その時間、人と会う約束をしていたのだが、すっかり忘れていた。なぜ忘れたのか、それを思うと自責の念に苛まれた。
 久しぶりに散歩に出たとき、雨上がりだったのか、膨張したミミズを踏んでしまった。一寸の虫にも五分の魂。下田は般若心経を三回唱えた。
 しかし、蛙を踏むよりましだろうと、気を取り直す。
 ひっきりなしに通る車。横断歩道で止まってくれない。下田は死してそれを示してやろうとぐっと前に出るが、そこで足が止まった。そのかわり厳しい目でドライバーを睨み付けた。
 午後から晴れると予報にあったが、雨はやんでいるが曇ったまま。晴れないではないかと、また怒り出す。
 政治家の不正での怒りもまだ続いており、憤怒の川を渡り続けた。
 その翌日お笑い番組を偶然見て、大笑いした。何の心配もないような馬鹿笑いだ。何の含みもなく、ただゲラゲラと。
 そのあと、また続き物のすれ違いドラマを見て、かんしゃくを起こした。どう見ても会えるはずのシーンなのだが、あと一秒の差で、互いに気付かなかったのだ。一寸横を見れば会えたものを。しかし、今回は、その不運に涙した。
 政治家の不正を追及していた政治家にも不正があることが発覚した。大きく裏切られたような気にならず、追求していた政治家が嫌いだったので、様を見ろとばかり、すっきりとした気持ちになった。
 次に見た刑事ドラマでは、主人公の刑事だけが傷つかないことに気付いた。正義ズラしたその俳優の顔がふてぶてしい。この主人公がとんでもないことになり、落ちぶれて行く姿を見たいと思った。
 その後も下田の感情を逆なでするようなことが起こり続けたが、疲れてきたのか、最近ボリュームが低くなったようだ。
 
   了

 


2017年5月8日

小説 川崎サイト