小説 川崎サイト

 

大きな器の人

 
「大河原様は器の大きな方です」
「あ、そう」
「私もあのような大きな器の人物になりたいと思っています」
「何のために」
「大きな器に憧れるからです」
「大河原さんの器が大きいのは野望があるためですよ」
「はあ」
「野望を果たすため、器を膨らませているのです」
「しかし、大河原様はそんな野望など抱ける立場ではありませんし」
「巡り巡って大河原さんが表舞台に立つかもしれませんよ。そのため、器を拡張し続けているのです」
「そうなんですか」
「だから、野望がなければ、器も大きくなりません。そんな必要がないからです」
「はあ、それでは野望を持たないと無理ですか」
「野望のある人は器も大きい」
「野望はあります」
「ほう」
「大きな器になるのが野望です」
「まあ、それでもよろしいですが、器を大きくするのは苦しいことですよ。何の得ることもないのに、器だけを大きくしても仕方がないでしょ。もし、それができたとしても、中身が詰まっていないので、ただの見せかけです」
「私が思うところによりますと、大河原様は最初から器の大きな人でした。だから、野望のありなしにかかわらず、生まれついてのものなのではないのですか」
「それなら、あなたがいくら器を大きくしようとしても無理だということになりますよ」
「そうですねえ」
「だから、器の大きさは大して違いはなく、その後、膨らませているのです」
「膨らむものですか」
「野望があれば膨らみます。そうしないと野望が果たせない」
「あのう」
「何かね」
「器の大きな大物のような振りをしている人がいるでしょ」
「はいはい」
「本当は小心者なのに」
「だから、言ったでしょ。膨らませているのです」
「拡張ですか」
「そうです。だから膨らませ方が下手なだけ。それと身についていないのでしょうなあ」
「そんなことを思うと、器の大きな人になる野望も萎みます」
「小人は小人の器で良いのです。ただ、野望がある人は膨らませようとしますがね。そしてそれが身につけば、本物の大人物になれます。決して天性大きな器の人などいません」
「はあ」
「野望のためです」
「野望ですか」
「また、野望を持つことが野望だとかは言わないでくださいよ」
「あ、はい」
 
   了

 


2017年5月10日

小説 川崎サイト