小説 川崎サイト

 

私が鳴こう雨蛙

 
 雨蛙が鳴いている。これは虫の知らせだ。雨が降る前に鳴くとされている。そのため、長期予報は無理だが、今すぐの変化を知らせてくれる。しかし、その程度の近さなら、人でも分かるだろう。
「雨蛙が鳴いております」
「異変が近いか」
「政変が起こるかと」
「どの蛙が鳴いておる」
「複数です。雨蛙の多さから察しますと、これは大きな政変が起こるかと」
「鳴かぬようにはできぬのか」
「さあ」
「ここで異変が起こると困る」
「はい」
「鳴きやめるように働きかけなさい」
「はい、なだめてみましょう」
「うむ」
 しかし、雨蛙は鳴き止まず、異変が起こり出した。
「申し訳ありません。何匹かは止めたのですが、数が多く」
「その中で鳴かぬ蛙もいただろう」
「はい、最初から鳴かない蛙がいました」
「それが救いじゃ」
「鳴かぬ蛙の方が多いかと」
「そうなのか」
「鳴いているのは一部です」
「そうか」
「その一部が、少しだけ多いので、目立つだけです」
「わしも鳴いた方がいいか」
「あなた様が鳴けば、蛙の大将になりましょう」
「そうか」
「鳴いているのは小さな雨蛙だけ」
「うむ」
「殿様蛙のようなあなた様が鳴けば大将になれます」
「他の殿様蛙は?」
「今のところ、あなた様の位に匹敵する人はいません」
「池田氏はどうじゃ」
「鳴く気はないかと」
「前田氏は」
「その気は最初からありません」
「同輩が誰も鳴かぬのなら……」
「鳴かぬなら」
「私が鳴こう雨蛙」
 しかし、この政変。鳴いただけで終わり、ただただ五月蠅いだけだった。
 
   了



2017年5月18日

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