小説 川崎サイト

 

見知らぬ駅

 
 最終電車が出たあと、間に合わなかった客が走り行く電車を見ていた。そしてホームから改札へ向かっているとき、もう一本停まっている。乗り遅れた客はそれに乗る。しかし、それは回送か、または始発まで、そこにいるのだろう。しかし、ドアは開いている。
 最終が出たのだから、この電車が出るわけがないが、同じように最終、あと一歩で間に合わなかった客が数人乗っている。
 このターミナル駅での最終は超満員。そこから考えると、一箱には一人か二人しか座っていない。酔っ払って横になっている人もいる。
 まさかホテル代わりに使う電車ではないはず。
 いつ発車するのか分からないというより、発車しないだろう。別の方法で帰る方法を考える必要がある。タクシーを奮発してもいい。朝までやっている店やカプセルホテルでもいい。友人に電話し、車で駅まで迎えに来てもらのもいいが、そんな親しい友人はいない。
 発車の合図もアナウンスもなくドアが閉まる。そして静かに動き出す。こんな便があるのなら、最終電車の意味がない。回送なら人を出してから出すだろう。
 電車は次の駅で止まる。誰も降りないし、誰も乗ってこない。次の駅でも同じだ。しかし、しっかりと停車している。まるで普通の各駅停車の電車のように。ただし無音。ドアがシューと開く程度。
 何駅か通過し、その客が降りる駅が近い。アナウンスがないので、自分の目で確認しないといけないが、外は暗く、今、何処を走っているのか、目印になるようなネオンとかがないと、分からない。
 駅が近いのか、スピードが緩くなった。あと二駅ほど先で降りるのだが、確認するため、外を見る。
 ホームに入ったとき、駅名が分かった。
 しかし、見たことのない駅名。毎日乗っているので、新駅ならできる前から分かっているはずだ。暗くて読み違えたのだろう。もう一度駅名が書かれものがあるので、それで確認すると、やはり見知らぬ駅名。
 何だろうと思い、その客は降りてしまった。いつもの駅の一つか二つ手前のはずなので、歩いてでも帰れるためだ。
 駅は無人。終電が出てしばらく立つためだろうか。しかし明かりは残っている。
 そして自動改札も動いているのか、すっと開いた。
 そして見知らぬ町が待っていた。
 
   了



2017年5月19日

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