小説 川崎サイト



夜の散歩者

川崎ゆきお



「それはまだ認められていないのじゃないかな」
「許可がいるんでしょうか」
「散歩するのに許可はいらないよ」
「じゃ、無許可だ」
「許可はいらないが、時間帯がある。治安の悪い都市なら夜間外出禁止令とかが出る」
「日本の都市は大丈夫でしょ」
「まあ、226事件でも起きれば別かもしれないが、何か事件でも発生しないと出ないだろうね」
「じゃあ、夜中の散歩は大丈夫なんでしょ?」
「だから、時間帯による」
「たとえば終電で降りた駅から家まで歩くとなると、これは深夜ですよ。一時は回っています。この時間帯は駄目ですか」
「場所による。明らかに帰宅中なら問題はない」
「じゃあ、何が問題なんですか」
「昼間、散歩しているような感じで、夜中にやると問題だ。目的が目的だからね」
「運動とか気晴らしとかが目的です」
「昼間ならその目的だけならいい。健康的な意味合い強いしね。でも深夜にやると、不健康じゃないかな。時間帯がね。健康が目的なら、夜は眠っているでしょ」
「そうですねえ」
「気晴らしで街を歩くというのも、昼間なら散歩だが、夜中だと徘徊になる」
「徘徊」
「意味もなく目的もなくうろうろしている感じだ。暗いんだから見るべきものもないでしょ」
「夜景を楽しむとかは、どうですか?」
「観光地ならいいんじゃないか。だが真夜中の観光はない。これも時間帯だ。深夜はまずいよ」
「じゃあ、深夜のドライブなんかはどうですか?」
「それはいいんじゃないかな。道路は昼夜を問わない移動手段だ」
「やはり深夜の散歩はまずいですか?」
「今、説明したように社会通念から外れてしまうからね。禁止はされていないが、控えるべきでしょう」
 この二人は、深夜、偶然顔を合わせた深夜散歩人だった。
 もっともらしく語るのは住所不定の中年男で、もう一人は受験生だった。
「悪いことは言わん、この時間帯に歩いている人間はろくな者じゃない。さあ、帰った帰った」
 
   了
 
 

          2007年4月22日
 

 

 

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