小説 川崎サイト

 

怪しき雨音

 
「言葉を発しておるとな」
「はい」
「ただの雨音だろ」
「それならわざわざ話したりしません」
「どんな雨音だ」
「同じ言葉を発したり、ときには歌い出します」
「何かに当たっておるのだろ」
「あしたくる。とか」
「明日来る?」
「はっきりと言葉になっています」
「うむ」
「言葉が聞き取れないときは、歌になります。演奏のようなもので、曲だけが流れています。オーケストラのように。それが途切れたとき、また言葉が」
「明日来る以外にかね」
「はい、しらがねをふんで……とか」
「白銀を踏んで?」
「雨なので、雪ではありません」
「白い銀という意味か」
「はい」
「他には」
「くろうはここまで」
「苦労はここまで?」
「そう聞こえます」
「明日来る。白銀を踏んで。苦労はここまで」
「はい」
「他には」
「聞き取れる言葉は、その程度です。順番は決まっていません」
「繰り返し、何度も語りかけているわけか」
「はい」
「まあ、そう聞こえるだけだろ」
「そうだと思いますが」
「それで、話はそれだけかな」
「これはどういう意味でしょうか」
「雨の降る日は聞こえるのじゃな」
「はい」
「明日来るの明日になっても、また明日来るのか」
「はい」
「やはり、そういう風に聞こえるだけじゃろう」
「気味が悪いです」
「家の者も聞いたのか」
「聞こえるのは私だけです」
「耳医へ行きなさい」
「はい」
 
   了



2017年5月29日

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