小説 川崎サイト

 

仮病の日

 
 岩村は朝起きてしばらくしてから、何かおかしいと感じた。難しい話ではない。身体の調子がいつもと違う。少ししんどい。二日ほど前に出掛けたので、そのときの疲れが今頃出たのかと最初思ったのだが、筋肉痛は既に治っている。だから、それではない。
 朝の日課を果たしていると、その原因が分かった。軽い風邪なのだ。夏風邪かもしれない。たまに引くので、気にするほどのことではないが、風邪になった理由が分かった。
 それは庭に面したガラス戸を見たときだ。暑いので昼間は開けている。昨夜は遅くまで熱が籠もっているのか暑いため、開けたまま寝てしまった。
 眠っているとき何度か起きた。トイレだ。単に目が覚めたときもあり、そのとき、掛け布団をしっかりとかぶっていた。寒かったのだろう。
 つまりこの年の夏、初めてガラス戸を開けて寝たのが原因だと判明した。寝る前、まだ暑くても、窓は閉めるべきだった。本当に暑い真夏なら掛け布団などいらない。そのときは可能な限り開け放していても何ともない。そして扇風機もずっと回っている。まだその時期ではないのだ。
 それで、朝から調子が悪いので、今日は静かに過ごすことにした。出掛ける用事があっても出ないことにした。こういう日がたまにある。風邪以外でも何となく調子がよくない日がある。これは嫌いではない。こういう日は好きなものを食べてもかまわない日となっている。また、日々の用事や用件も休んでもいい日。何もしなくてもいい日なのだ。つまり、部屋でごろんとしていてもいいし、軽く散歩に出てもいい。普段は食べに行かないような良い店に行ってもいい。逆にこの日はハレの日になっている。だから体調の悪い日は嫌いではないのだ。
 そして、こういう日に残して置いた動画がある。好きな映画だが、まだ見ていない。ネット上のレンタルビデオなので、借りに行く必要はない。すぐに見られる。
 寝込むほどではないので、近所のコンビニで、高い目のおやつを買い、それを食べながら、映画を見た。
 そういうのを楽しめるのだから、大した風邪ではない。もしかすると仮病かもしれない。しかし、誰に対しての仮病だろう。自分自身を偽るための仮病か。つまり、うまいものを食べ、好きなことをして過ごしたかっただけかもしれない。
 
   了




2017年6月2日

小説 川崎サイト