小説 川崎サイト



アドバイザー

川崎ゆきお



「虎視眈々と、常に目を光らせている連中がいる。一日中チェックしているんだな。この連中には負ける」
「でも、そんな暇はありませんよ。本業がありますからねえ」
「目を光らせチェックし、あらゆるところに罠を仕掛ける。これが本業だ」
「分かりますが、人件費が」
「一件売るのにいくらかかるかを調べてみた。その経費の十分の一で雇えるよ」
「それは信じられないですよ」
「やっているところはやっている。経費をかけないで商談成立だ。数人バイトを雇えばいい。素人でいいんだよ。ずっとチェックし、目を光らせているだけで」
「成功例はありますか?」
「あるから言っている。また、それをしないと話にならんよ。二週間に一度ではね」
「毎日やれと言うのですか」
「一時間置きだ」
「無茶です」
「あなたがやる必要はない。バイトに任せればいい。あなたの代わりとなって動いてくれる」
「そこまでやりますかねえ」
「これは他社の例だ。全部バイトがやっている。集客率が増え、商談成立率は右肩上がりだ。客を持っていかれているんだ。罠のお陰でね。あなたがやらないのなら、全部他社が客を持っていってしまうよ。そして成立した客を囲い込んでる」
「その例は分かりますが、どうも実感がわきません」
「私のアドバイス料なんて僅かなものですよ。払える金額だから呼んだのでしょ」
「そうですが」
「話を聞いただけでは、何も変化はありませんよ。実行しないと。他社はやってますよ。少し知恵のあるオーナーなら考えられることだ。他社が実行できるのは、自分の頭で考えているからだ」
「私も考えていますよ。だから二週間に一度は」
「だから、それじゃ勝負にならないし、誰も引っ掛からない。目立たないんだよ」
「他社は一時間置きに?」
「五人のバイトが、二十四時間睨みをきかせている。客になりそうな場所、客になってくれそうな人にツバをつけて回っている」
「それって、スパムじゃないですか?」
「広告を貼り付けているわけじゃない」
「どういう方法なのか、教えていただけますか。アドバイス料は継続して払います」
「いや、今日は打ち切りできた。あなたが実行しないから、やる気を失ったんだ」
「はあ……」
 
   了
 
 


          2007年4月23日
 

 

 

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