小説 川崎サイト

 

影の道

 
 昼寝から覚めた竹中は、寝足りない。暑くて起きてきてしまった。冬場の昼寝の半分以下、いや三分の一かもしれない。ものすごく高温時の昼寝となると、これは危険を感じてか、眠りのスイッチが入らない。このまま寝てしまうと、危ないためだろう。扇風機程度では効かない。
 それに比べると少しは眠り、夢程度は見た。しかし、すっきりとした昼寝起きではない。身体が高野豆腐のように乾燥している。
 寝起き、これから何があるのかと、それを考える。特に変わった予定はなく、昨日と同じパターンになる。少しは変化が欲しいが、変化させるためには、何かを思い付かないといけない。変化が欲しいだけで、何かをするというのは、退屈の虫を鎮めるだけが目的になり、これはあまりよくない。何かしっかりとした目標に向かっての行動ならいいが、暑い時期、真面目なことを考えるのもかったるい。余計暑苦しくなる。
 それで退屈しのぎの遊びを考えるが、良いのが思いつかない。しかし、実に平和な話で、だらだら過ごせることが本当は貴重なことなのかもしれない。大変な目に遭い、日々ひやひやしながら過ごしたり、悪夢を見続けたりすることに比べれば穏やかなものだ。
 竹中はそういうとき、友達に合いに行った。誰かと合っていると、それだけで刺激になる。退屈なら、退屈だという話をすればいい。それでかなり退屈しのぎができる。
 それは学生時代までで、社会人になってからは、そんな暇なことはできなくなった。それに年々友人は減っていき、今は親しい友達は一人もいない。
 竹中はそういうとき、一人芝居のようなことをする。相手がいないのにぶつくさ台詞を吐きながら歩いている人ではなく、そこは心得ている。
 さて、昼寝後の竹中だが、そのまま外に出てみた。まだ暑い盛りだが、部屋にいると息が詰まりそうになるため、脱出した。
 外は炎天下とまではいかないが、ほどほどに暑い。それで、日陰の道に入り、そこを歩いていると、結構人がいる。
 道は街路樹とか建物で、少しだけ日陰があり、道の中に影の道ができている。その細い影の帯を踏むように歩いている人が多い。竹中もそれに誘われるように、影の道に入る。ある間隔を取りながら行列のように伸びている。何かのために並んでいるのではなく、単に歩いている。しかも全員一人。
 坂にさしかかったとき、その行列がよく見える。坂の上までびっしりと人がいる。そして坂の上に来て、下を見ると地平線の彼方まで人が歩いている。蟻の行列のように。
 この人達は何だろう。どの人も追い越したりしない。その歩みは遅いのだが、誰も急いでいる人がいないようだ。竹中もその歩調に自然と合ってしまい、行列の中の一人になる。
 よく考えると、家の近所にそんな坂のある道はない。そして、そんなに都合よく影が続くような道もない。
 竹中は、影の道に入り込んだようだ。
 
   了





2017年6月3日

小説 川崎サイト