小説 川崎サイト

 

大物の秘密

 
 勿体ないことをした。無駄なことをした。しなくてもいいことをやってしまった。等々と後悔する場合がある。世の中には無駄なことなど一つもないというが、それなら世の中全て無駄なものばかりかもしれない。
 無駄骨を折る。無駄な骨折りで身体の中に無駄な骨があり、それを折ってしまったのなら、無駄骨なので、かえってよい場合もある。実際にはそういう意味ではなく、骨折りとは、労することだろう。骨の折れる仕事とかを連想すればいい。きつい仕事なので、体力を使い、さらに無理な姿勢で力を込めるため、骨が折れそうになる。
 岸和田の解釈は自分勝手で、世の中には無駄なことなど何もないというのを利用して、無駄なことばかりしていた。有意なことより、どうでもいいようなことの方が楽しいためだ。いわば遊びだ。無駄なものは何一つなく、それが何処かで役立つはず。しかし、これは理屈で、実際には無駄は無駄なのだ。ただ、後で後悔したとき、無駄なことなど世の中にはないと、慰めに使う。
 やったことが無駄に終わる場合がほとんどだが、中には何かの偶然で、それが役立つこともある。ものすごく低い確率だが。しかし、まともにやっていた方が効率は高い。だから計算すれば、無駄な動きをしていた人の方が成長は低い。
 岸和田が狙っていたのはそこで、あまり先へは進みたくないのだろう。それだけの才覚もないし、器も小さい。
 しかし、後で後悔するような無駄なことも多いのだが、それが経験になるはず。つまり知恵が付くはずなのだが、それを生かそうとしないで、相変わらず無計画なことばかりやっていた。その場その場の思い付きで、気分次第で事を進めた。そして大概は失敗し、途中で投げ出し、放置した。
 しかし何やら夢があるらしく、その夢が何かは分からないようだが、それに誘われてやっていたらしい。目的がはっきりとしないのに、目的地へ向かっている。
 何をしたいのかがよく分からないだけに、何にでも手を出す。蛍のように甘い水を求めて飛び回っているのだろう。
 この岸和田は、今では超大物として君臨している。その自伝が最近出た。それは人々のお手本になるような内容で、岸和田の人生論が語られていた。
 そんなはずはないのだが、本当のことは秘して語らずで、表向きは根気よく一つのことをじっくりとやり続ける人だった。
 
   了



2017年6月4日

小説 川崎サイト