小説 川崎サイト

 

思い付き

 
「何も思い付かないときは、どうしますか」
「また、後で考えます」
「それは賢明ですね。しかし、今すぐに決めないといけないときがあるでしょ」
「ありますねえ。後でいくら考えても、なかなかいいのが思い付かなくて、熟考しても、同じこと。いくら考えても何も出ない」
「そういうときです」
「足踏み状態で、そのままになります」
「それでも今すぐ決める必要に迫られていた場合は、そうもいかないでしょ」
「いきませんなあ」
「どうなされています」
「いいのは思い付きませんが、そのとき思い付いた複数のものから一つ選びます。どれもこれといったものではなく、あまりよくないものです。それは複数あります。本来なら、それは採用しません。しかし、いいのがないのなら仕方がありません。その中から一番ましなのを選びます」
「はい」
「しかし、それは満足のいくものではありませんから、間違いなのですがね」
「すると、間違いがまだましなのを選ぶわけですね」
「ましなだけです。最善のものではありません」
「そういうのを選んだことはおわりですか」
「はい、そういう状態のとき、とりあえず決めないといけないので」
「それでどうなりました」
「まずまずでした」
「じゃ、うまくいったのですね」
「そうなんです。いい思い付きじゃなかったのですが、結構理に適っていました。そのときはそう思わなかったのですがね」
「では、いい思いつきだったもののその後はどうです」
「これは意外と駄目な場合がありますね。不思議です。何でしょう」
「さあ、私にも分かりませんが、思っていることと、現実の実際の動きとはまた別なのでしょうねえ」
「そうですねえ」
「思い付きはいいのですが、その思いが偏っているのでしょうねえ。決して間違いではありませんが、現実はそうでなかったのですから、現実のとらえ方が少し違っていたのかもしれませんよ」
「仰り通りです。思っていることと、現実とは違う。それも含めて考えたのですがね」
「しかし、いいお話でした」
「そうなんですか」
「いい思い付きでなくても、うまくいくことがあり、いい思い付きなのに、うまくいかないことがある。ということです」
「それは役に立ちますか」
「立ちません」
 
   了




2017年6月5日

小説 川崎サイト