小説 川崎サイト

 

とどのつまり

 
 極めた人は、とどのつまりを見てしまう。その身もとどのつまりとなる。トドが何かの都合で、詰まってしまったようなものだ。そこから先は行き止まり。海馬の話ではなく、行き着くところ。
 そのため、とどのつまりに多くの人がいる。極めた人が多いのだろう。しかし、そこが終点、終着点、行き止まり。それまで前へ前へと泳いでいたトドも、後退しないといけないが、後ろに多くのトドが来ているので、戻るのも大変だ。それにそれは後退になる。
 水族館の角でトドの詰まりを見たわけではないが、物事を極めると、とどのつまりになることを知り、これは極めない方が好きなところへ行けると思った。物事は極めると損。そこまで行く必要はない。
 しかしよく考えると下村は極めるどころか、初心者レベルのままで、そこからの歩みが遅い。だからそんな先のことなど気にする必要はないのだが、行き着くところがとどのつまりなら、やる気も失せる。到着点には多くのトドが群がっているだけ。
 その心配も下村には不要なほど歩みがのろいので、生きている間には到着しないだろう。だからいらぬ心配で、初心者レベルから安心して脱してもかまわないのだが、逆にいえば珍しい例だ。つまり初心者よりも極めた人の数の方が多くなっていた。
 下村は長くそこにいるので、結構な年になり、年齢だけなら長老だ。しかし、そのレベルは初心者と変わらない。初心を忘れずの戒めで、ずっと初心のままでいるわけではない。
 そのため、極めたトド達よりも目立つようになった。非常に珍しい例のためだ。
 そして下村の評判が上がりだした。中身は何もない。しかし目立つのだ。これは特殊な業界のためかもしれない。それを知ったとどのつまりをやっていたトド達は引き返すことにした。極めたトドたちはものすごい数で大群だ。それが一気に下村のいる位置へ殺到したのである。逆行してくる大群は下村の位置まで来たが、さらに超初心者の位置まで逆走した。後ろから逆走してくるトド達のためか、先頭はさらに押し出され、素人のレベルに達した。そこは広い世界で、とどのつまりではない。
 気が付けば、極めたトド達のほとんどが素人以下にまで後退したので、初心者レベルにいた下村がトップになった。その上は、全部下ってしまってがら空きとなったのだ。
「ということになればいいんだけど」
「そんな夢など見ないで、頑張ってくださいね、下村さん」
「あ、はい」
 
   了



2017年6月9日

小説 川崎サイト