小説 川崎サイト

 

踏切の怪

 
 真夜中、急に鳴り出し、踏切が閉まる。私鉄の路線なので、その時間、電車は走っていないのだが、作業用の車両が動いていることがある。
 橋本はそれだろうと思いながら聞いていた。深夜でも起きている人はいるが、この時間、さすがにどの家の窓も暗い。たまに通る車の音がいやに大きく聞こえる。橋本のいる場所から結構離れているのだが、聞こえるのだ。踏切もその距離にある。
 毎晩その時間になると、踏切からカンカンカンと聞こえてくる。点検や工事にしてはいつも同じ時間で、それが一週間も続いている。
 そういった作業車を橋本は何度も見たことがあるが、黒い塊が静かに移動しているのは不気味だ。夜中、小腹がすき、コンビニへ寄ったとき見たが年に一度あるかないかだろう。通っていても気付かないこともある。
 それが一週間ほど続いているため、どんな車両なのかを見たいような気になった。そんなものを見ても、橋本は得にも損にもならない。しかし、真夜中に仕事をしているため、息抜きが必要。単純作業を綿々とやっていると、頭がおかしくなるわけではないが、いつまでもいつまでも同じことをやる病のような状態になる。ずっと走り続けたり、歩き続けるうちに、それが快く感じるようになるのと似ている。
 何も考えなくても自動的にやってしまえるときはその状態になるが、躓いたり、ちょっと考えないといけなくなったとき、そのサイクルから抜けてしまう。意識的にやらないと進めないためだ。
 その夜は、そんな感じのときで、息抜きがしたかったので、カンカン鳴る時間に合わせ、その踏切を見に行った。作業車を見るのが目的ではなく、ちょっと間を置きたかったのだろう。
 そして、いつも鳴る時間前にそこに立つと、カンカンカンカンと驚くほど大きな音がした。寝静まっているためだろう。遮断機がしばらくしてから降り、さらにしばらくはそのままカンカンカンの音だけがけたたましい。
 やがて遮断機が上がりだし、その後、音もやんだ。
 橋本は首をひねった。そしてしばらくそこに棒立ちとなる。
 何も通過しなかったのだ。
 
   了


2017年6月14日

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