小説 川崎サイト

 

貧乏封じ

 
 大木ヶ原は高原にある村落地帯。山岳部にあるのだが、平らな場所もある。そのはずれに空き家となっている屋敷がある。ここには庄屋屋敷はあるが、武家屋敷はない。郡代屋敷もない。庄屋が請け負っていたためだ。そのため、武士の姿を見るのは希。それなのに武家屋敷が大木ヶ原の外れにある。殿様の隠れ家、別邸のようなものだが、今は誰も住んでいない。ついこの間までは家督を譲った殿様が、しばらく住んでいたが、不便な場所なので、すぐに引っ越した。この当時、治世が悪くなると、さっさと引退したようだ。そのため、まだ若い時期に息子に譲ることが多かった。一時しのぎだが、責任の取り方の一つだろう。領民はそれで納得した。
 さて、その外れにある屋敷だが、これも実際には贅沢ということで、閉めたようなものだ。
 その屋敷を管理しているのは庄屋の執事。その執事の息子がたまに見回る程度。そして、見てしまう。
「何者かが住んでいるようです」
「村のものか」
「違います。老人です」
「御領主の家族では」
「物乞いのような服装でした」
 辺鄙な村だが、物乞いがいないわけではない。この領内ではお構いなしとなっている。つまり、捕らえたりはしない。
「ぼろ布の浴衣で、帯の代わりに縄で」
「山の人達とはまた違うなあ」
「はい」
「一人か」
「はい」
「物乞いの住処になると困る。追い出せ」
「はい、父上」
 屋敷には大広間があり、一段高い場所があり、そこにひなびた老人が寝そべっていた。
 執事の息子がそっと近付き、出ていくように伝えた。
 老人は哀しそうな顔をしながら、出ていった。
 その後、領内の財政が厳しくなり、年貢が上がった。このままでは一揆になる。領主は据え変えたばかりなので、まだ幼い。領主を変えて凌ぐ方法が使えない。
 財政が厳しくなったのは特産品が売れなくなったことが大きいが、それだけではなく、色々と出費が増えたのだ。
 執事は庄屋にあることを伝えた。いうほどのことではないので、あの屋敷にいた老人のことは報告しなかったが、妙に気になるのだ。
 庄屋は執事の話を聞き、城下へ向かった。
「追い出したと申すか」
 家老は意味が分かったようだ。
「探し出して、住んでもらえ」
 庄屋は執事に命じ、執事は息子に命じ、大木ヶ原中を探した。そして、掘っ立て小屋でその老人を見付け、あの屋敷に戻した。
 庄屋が取った行動は、貧乏封じだった。
 あの屋敷に貧乏神を封じていたのに、息子が封を切ったのだ。それで、封印し直した。
 領内の経済が回復しだしたのは、しばらくしてからだ。
 これを貧乏神の裏封じというらしい。
 
   了


2017年6月21日

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