眠い状態の時がある。元気がない状態なのだが穏やかな気持ちでいる状態でもある。
高峰は久しぶりにその状態になった。いつもより動作が鈍い。歩くスピードも遅く、食事もゆっくり食べている。
それは目的が消えたためかもしれない。
「気が抜けたようになったよ」
「それで普通じゃないですか」
同僚の三船が慰める。
「また、メンバーに加えてもらえますよ。高峰さんほどの力があれば」
「給料も下がるんだろうなあ。将来が見えたような気になってる」
「だから、それで普通なんですよ。同期の連中、みんなそんな感じですよ」
「そんな……って?」
「だから、特に何もなく、普通に仕事をこなしているだけですよ。高峰さんだけですよ。抜擢されて大事な仕事を任されたんでしょ。僕らは羨ましいとは思わないけど、名誉なことですよ」
「やる気が失せたよ」
「元に戻っただけですよ」
「目的を失うと、駄目になるねえ」
「普通に戻るだけですよ。異常から正常へ戻るだけです」
「いい発想だなあ」
「僕なんか力がないから、そう思わないとやっていけませんよ。まあ、最低限の仕事だけはこなして、あとは適当にやるのが目的と言えば目的です」
「目的があるんだ」
「だから、それは積極的な目的じゃないので、目的なんて言えた代物じゃないですよ」
「と、言うことは、俺はハードルを越えるために頑張っただけなのかな。ハードルがなくなると、もう走る気にもなれない」
「低いハードルだと助走しなくてもまたげますからね」
「俺もそこに行くのかなあ」
「もう、行ってますよ。こんな話、今までなかったでしょ」
「ああ、忙しかったからな」
「僕らと話しても、時間の無駄だったでしょ」
「まあな」
「それでどうします。またメンバーに復帰してバリバリやりますか?」
「それも虚しくなったよ」
「落ち込んでいる時だから、そう思うだけですよ」
「人って、一度の失敗でダウンするものだな。見てはいけない夢を見ていたようなものだ」
「まあ、ゆっくりやりましょうよ。エリートになっても、そんなに差はないですよ。僅かな差でハードな仕事をするのは割に合いません」
高峰は、何かを悟ったような気がした。
了
2007年4月25日
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