小説 川崎サイト

 

市兵

 
「梅ヶ丘公園がどうも怪しい」
「はあ」
「広い公園なのは分かる。自然も豊かだ。市街地の中で、あれだけ広い土地はないほど。私がそれに気付いたのは人が多いためです」
「人気があるのでしょう」
「その人じゃない」
「はあ」
「公園にいる作業員の人数です。まあ、木の手入れをしたり、草をむしったり、手すりを直したりと、よくいる作業員ですよ。落ち葉などを掃除したりね」
「はい」
「こういうのは年寄りの作業員が多いのですが、若い人が結構いる。ここが違う」
「どういうことですか」
「非常に広い敷地で、芝生の広場もあります。この手入れも大変でしょう」
「はい」
「しかし、それにしても作業員が多い。その日、私はぐるっと公園内を探索しましたが、十人やそこいらじゃない。もっといる」
「それぐらい必要でしょ」
「一寸した事務所のような建物があります。芝生広場前です。売店はありませんが、自販機がものすごい数、並んでいます。建物内には資料室でもありそうな程ね。または記念館ではないかと思ったのですが、一般の人は受付まで。中はただの事務所です。中で何か催し物とかはないようです」
「はい」
「中を覗くと、かなり人がいます。事務員風ですが、そんなに人数、いるのかと思うほどです。まるで学校の職員室のようでした」
「そして」
「はい」
「芝生広場の近くに妙なものが突き出ています。これがこの公園の秘密でしょう」
「何ですか」
「空気を取り入れるための」
「芝生の下が駐車場でしたか」
「いえ、一般道路は遠いところを走っていますし、駐車場はその近くに小さいのがあります。あまり多く止められませんがね」
「はい」
「日を改めて、また行きました」
「はい」
「その日も人が多い。数十人の作業員が出ています」
「シルバーセンターとか、そういった人達では」
「違います。この公園の作業服で、しかも若い人も多い」
「すると」
「芝生広場の地下室。かなり広いはずです。そして何に使っているか分からないほど大きな事務所」
「はあ」
「おそらく百人以上、いや、それ以上の人数が常駐していると見ていいでしょう」
「公園でしょ?」
「そうです。しかし、これだけまとまった人数を持っているのは、この市内では、ここだけかも」
「学校とかもあるでしょ」
「ただの子供でしょ」
「大きな工場とかなら、もっと人がいるでしょ」
「ここの作業員は武装しています」
「武装?」
「植木ばさみ、ナイフのような小さなノコギリ。当然電動鋸や電動カッター。高い街路樹の枝でも切れるクレーン車。伐った枝や葉を運ぶ清掃車もありました。それらは公園の奥の立ち入り禁止となっている場所に何台も止まっています。車両部隊です。兵舎のようなものも見えました。これは市兵です。さらに中を覗くと、高きリばさみを構えた長槍舞台がずらりと並び、槍の稽古です」
「はあ」
「組織的に構成されたまとまった人数を繰り出せる」
「兵隊なのですか。公園の作業員が」
「そうです。背が高いし、体格もいい。市が雇用した私兵なので市兵です。そんなこと有り得ないと思っているでしょ」
「当然です。目的がないし、そんな組織など作れるわけがありません」
「しかし、自衛隊や警察ではなく、市も武力を持ちたいのでしょう」
「その発想は有り得ません」
「公園を注意して見ることです」
「公園は公園です」
「まとまった武力集団が公園を駐屯地にしているのです。普段は市営の植木屋のように見せかけて」
「はいはい」
 
   了




2017年7月1日

小説 川崎サイト