小説 川崎サイト



零時まで

川崎ゆきお



 零時前まで開いているスーパーがある。客はいない。いるのは学生バイトと警備員だけ。
 バイトの大橋はレジに立ち、警備員の村西は入り口に立つ。二人とも店の奥を見ている。
 間もなく閉店だ。
 警備員は入り口に本日終了のボードをかける。オーダーストップのようなものだ。零時まで開いているが、三十分前までに入らないといけないようだ。
 十一時過ぎに客が帰ってから、誰も入ってこない。二人ともやることがないまま、立ち尽くしている。
 五つあるレジの端っこに立つ大橋は、たまにレジの外に出ることもあるが、ほんの数歩で戻る。用事があってのことではない。少し動かないと疲れるのだ。
 入り口は二つあり、その前は駐輪場と駐車場だ。大橋は左側の入り口近く。村西は右側のドア前にいる。
 大橋からは村西は見えないが、村西からはレジの大橋を含めて見渡せる。
 つまり、村西が大橋を見張っている感じだ。警備員が監視していることになる。
 夜の遅い時間は、この二人しか店の人間はいない。コンビニのように始終客や搬送の車が出入りすることもない。
 零時十五分前となった。客はいないのだから、閉めてもかまわない。入り口は開いているが、出る客のためだ。
 もう客はこないのだから、レジを打つ必要もない。
 大橋には仕事がない。時間まで立っているしかない。だが、村西は仕事をしている。客がいないのだから、警備対象は大橋となる。大橋が妙なことをしないかと見張っているようなものだ。
 大橋はその視線をずっと背中で受けている。振り返れば村西を見ることもできるが、その動きは露骨すぎる。まるで村西の様子を確認する感じとなるからだ。
 村西は大橋を見ているわけではない。店の全体を見ているだけだ。それにもう客はいないのだから、実際には何も見ていないのだ。
「いいかげんに疑うのはやめてください!」
 大橋が急に叫んだ。
 村西は叫び声の発生源が分からなかった。前の道路で何かあったのかと思い、入り口側を振り返った。
 その後頭部を大橋が平手ではたいた。
 帽子がポタンと落ちた。
 大橋はレジに戻った。
 村西は帽子をかぶり直し、身構えたが、店の中に異状はなかった。
 そして零時に店の照明が落ちた。
 
   了
 
 
 



          2007年4月26日
 

 

 

小説 川崎サイト