小説 川崎サイト

 

疋田氏の昼寝

 
 疋田氏は昼寝をしたのだが、ウトウトしただけで、これでは十分も寝ていないと思ったのだが、時計を見ると一時間以上寝ていた。しかし、眠った感覚はない。寝入りばなに起きたような感じで、寝付く前の感覚だ。いい感じでうっとりしてきた頃だ。しかし、意識が途切れたのは分かる。寝ようとしている自分を見ていないためだ。
 今、眠ろうとしている最中だという意識だ。それが消えたのは確かなので、一時間以上寝ていたのに気付かなかったのは、意識が途切れたためだろう。だから気付かなかった。その間、夢も見ていない。
 疋田氏の昼寝時間は長くて一時間、平均すれば三十分ほど。だから十五分とかも結構ある。特に夏場の暑い頃は、短い。
 その日は梅雨の晴れ間で暑い昼だった。真夏と同じ気温で、それに加え湿気がひどく、蒸し暑い。こんな昼は十分も寝てられないはず。
 しかし一時間以上寝ている。これは損か得かと考えると、気持ちの上では損だが、身体にとっては得だ。それだけ休憩したのだから、心身とも休めたはず。十分よりも。
 しかし、どうも満足感がない。沢山寝たという充実感だ。だが、充分過ぎる昼寝時間だったため、起きたときは元気だ。昼寝前はバテていたので、丁度よかったのかもしれない。
 長い昼寝だったが、起きた時間はいつもと変わらないどころか、早かった。これは昼寝に入る時間が早かったためだろう。バテていたので、早い目にバタンキューしたようだ。
 つまり昼寝の前倒し。これが効いていたので、長寝をしても起きたとき、焦るような時間ではなかった。
 しかし、焦るような用事は起きたあとにないのだが、いつもよりもずれ込むと、せわしない。ゆっくり一日をエンジョイできない。
 だが、楽しめるようなことが、昼過ぎからあるわけではない。小さな楽しみはあるが、それなりに面倒臭い用事の方が多い。そういう用事は特に嫌なことではないのだが、できればやりたくない。
 昼寝後、疋田氏は散歩に出る。暑い盛りだ。これで昼寝で溜めたスタミナも消費してしまうだろう。溜めては使い、使っては溜めるようなものだが、それは単に寝ることで充電されるので、特別な装置もお金もいらない。
 疋田氏は世間に出て色々と仕事をしてきた人なのだが、早い目に引退し、非常に長い余生を送っている。あとは余った人生ということで、何に使おうと自由なのだが、結局何もしなかった。実はこれが若い頃からの夢だったようで、年取ってから面倒なことをするのが嫌だったようだ。
 
   了


2017年7月4日

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