小説 川崎サイト

 

夏風邪の日のゲーム

 
 朝、田村はいつものように起きたのだが身体が重い。寝起きすぐに分かるものかと思われるが、ぐっと上体を起こしたときの、そのバネが今ひとつ元気がない。これではプロレスごっこで簡単にスリーカウント数えられるだろう。跳ね返す力が弱いのだ。しかし田村はレスラーではないので、その心配はないが。
 寝起きすぐにパソコンを起動し、ウェブを見るのだが、文字が読みにくい。目が疲れたとき、たまにそんなことが起こるし、また寝起きから明快に見えることはまずないのだが、それでも普段よりも霞んでいる。
 気になる記事があったので読む。これは滅多にない。いつもいつも興味のある記事などないからだ。しかしその朝は久しぶりに興味深い記事だったので、熱心に読んでいたのだが、途中でしんどくなってきた。
 朝食を買いに近所のコンビニまで行くが、足が重い。このところ猛暑が続いていたので、バテたのだろう。しかし、今朝は涼しい。疲れが出るのはそんな日だ。そして、くしゃみ。これは太陽を見たとき、出ることもあるが、今朝は曇っている。それで日差しがないので、都合がいいのだが。要するに夏風邪だろう。
 やりかけの仕事もあるが、この夏風邪を理由に、田村は病気モードに入ることにした。安静にしていた方が好ましいのだが、寝込むほどのものではないので、普通なら普通に過ごすだろう。しかし、身体が重く、しんどさがあるので、安静にしておいた方がいい。安静とは何もしないで、静かにしていることだ。
 やりかけの仕事が嫌なので、サボりたかったのだろう。病気の日なので、特別な日となり、美味しいものを食べてもいいし、好きなことをして過ごしてもいい。
 そしてそういう日は楽しいことを思いながら過ごすことにしているのだが、最近、楽しめることが減ったので、探すのが大変だ。
 寝込むほどではないので、ネットで買いたいものを探したりするが、これはというのが出てこない。あっても高すぎたりする。楽しいはずの商品やサービスが、逆に苦しいものになりかねない。
 それで、ウェブゲームなどをして、過ごしていたのだが、どうもノリが悪い。単純に敵をばたばた倒し、経験値を積み、レベルアップし、次のステージへ向かうようなタイプがいいが、無料なのだが、アイテムを買わないと、結構辛くなってきた。それで普通の無料のオンラインゲームをやろうとしたのだが、ダウンロードに手間取り、すぐにはできないし、更新も多い。
 それで大昔やっていたゲームを思い出し、探し出した。慣れたゲームなので、マップもよく分かっており、モンスターとの戦い方も熟知している。
 そのゲームはまだ残っていた。そして面倒なダウンロードをし、インストールをし、やっと最初の画面に入れた。キャラの設定などをし、最初の村で一番弱いモンスターを倒すことになるのだが、村の広場は無人。以前やっていた頃は足の踏み場もないほど人がいたし、物売りも大勢いた。誰もいないゴーストタウンになっていたのだ。
 しかし、武器屋では武器を売っている。まだコインががないので、買えないが。
 魔法屋があり、少し離れた場所だが、そこへ移動する。こういう店屋は同じ場所にあった方が好ましいのだが、何度もやったゲームなので、場所は探さなくても分かる。
 村の通りにも人はいない。ただ、ぽつんと立っている芸子がいる。遊郭が近くにあり、その横に賭場場があるのだ。ここに入ったことはないが、その芸子に声をかければ、中に入ることができるが、コインを払わないといけない。まだ始めたばかりなので無理だが、会話はできる。動いているのだ。
 魔法屋はすぐに見つかった。巻物を売っている。速く走ることができる巻物や呪文書だ。
 懐かしいので、村をウロウロしていると、何かが動いた。誰かが前を横切ったのだ。
 田村はその四つ角まで行き、消えた方角を見ると、後ろ姿が確か見える。田村と同じようなプレイヤーがいるのだ。
 最初のクエストのため、村の門を出て、外に出る。村といっても城壁で囲まれている。外は野っ原で、一番弱いモンスターがちょろちょろしている。それを十匹狩るのがクエスト。
 また倒すとコインやアイテムを落とすので、まずはそれを蓄えとし、そして経験値も上がるので、レベルアップすることだ。
 早速近くにいるモンスターを叩いたが、なかなか倒れない。逆に反撃を受け、HPが一気に半分になる。もう一撃受ければこちらが倒れる。こんな強いはずはない。設定が変わったのだろうか。
 田村は二撃目を受けたが、少しだけHPは残っている。三撃目を受ける前に倒せたのだが、これはもう真剣に戦わないとまずいことになる。そして座ればHPが回復するはずなのに、HPのバーがなかなか上がらない。回復薬もない。これでは十匹倒すのに時間がかかるだろう。
 今度はモンスターが襲ってきた。このモンスターは攻撃してこないタイプなのに、これも設定が変わったのだろうか。HPがまだ少ないので、田村は逃げることにした。ある一定の距離まで逃げると、追いかけてきたモンスターも引き返すはずなのだが、結構長い目に設定されているのか、逃げても逃げても追いかけてくる。こういうとき、馬があればいいのだが。
 かなり逃げたところで、やっとモンスターはある距離に達したのか、引き返した。
 そして、その先を見ると、またモンスターがいる。見つかれば襲ってくるだろう。まだその距離ではないので、モンスターのいない方角へ進んだ。
 どうなっているのだ、このゲームは、約束が違う。
 田村はすっかり熱くなってしまい、夏風邪のことなど忘れた。
 
   了



2017年7月27日

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