小説 川崎サイト

 

何もない風景

 
「何もない」
「はい」
「これは問題だ」
「はあ」
「何もないはずはないので私は見つけられなかっただけかもしれない」
「じゃ、何もなかったのでしょ」
「一見してね」
「探してまで見つける必要はないと思いますが」
「いや、何もないと、先へは進めん」
「進みやすいのじゃないのですか。障害物がなくて」
「障害物があるから進む気になる。ところが何もない。これは何かある」
「何もないのでしょ」
「何もないときに何かあるのだ。だから怪しい」
「何かあった方がいいのですか」
「分かりやすい。対処方法を考える暇がある。ところが何もないと不安でねえ」
「何かある方が不安なのじゃないのですか」
「そうなんだが、何もないと逆に不気味だ。その静けさ、その静まり具合。これは罠かもしれない」
「誰が」
「相手はいなくてもいい。単に私自身の油断だったりする。よく見ておけばそれに気付いたはずと、後で後悔しそうなね」
「何かが起こっている方がいいと」
「そうだね」
「何もなければ楽に進めるのですから、あまり深読みされない方がよろしいかと」
「それは分かっているが、何もないというのは逆に問題なのだ。この何気なさが怖い」
「何も見いだせないのでしょ」
「引っかかりがない。これといったものがない」
「困りましたねえ」
「何かあるときの方が困らない。どうすればいいのかが分かるからね。ところが何もないと何もできない」
「それで、立ち止まっておられるのですか」
「そうだ。この風景はいけない。何もなさ過ぎる。つかみ所がない」
「進んでみてはいかがです。きっと何もありませんよ」
「何もないことはできない。何かないと困る」
「じゃ、そうやって立ち止まっていればいいのですよ」
「それも困る」
「何もないはずです。進んでください」
「そのようにすべきか」
「はい」
「じゃ、そうするか」
 
   了





2017年7月29日

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