小説 川崎サイト

 

サバイバル

 
「夏はサバイバルゲームだね」
「そのジャンルのゲームは夏向けでいいのですか」
「いや、この暑さに耐えることがサバイバル。主人公は私だ」
「生き残りですか」
「まあ、暑くて死ぬ人も出るだろうが、暑さで戦線離脱もある。暑くて何ともならなくなり、動きが鈍ったり、休んでしまったりするからね」
「それが夏のサバイバルですか」
「襲ってくる猛暑との戦い。これに負けると、夏を乗り切れない」
「死ぬのですか」
「仕事とか用事がはかどらない。だからそちらが死ぬ」
「でも、生きているのでしょ」
「生きているが使い物にならん。まあ、物理的ダウンはよほどのことだね。それこそ熱中症で倒れるとか」
「でも、ほとんどの人は暑い暑いといいながら、何とか過ごしていますよ」
「それだよ。その暑さとの戦いをサバイバルだと言っている。生き残るための戦いと言えば大げさすぎるが、結構負荷があるからねえ。熱中症だけじゃなく、暑いと現れる諸症状がある。それらをクリアーしながら夏をゆく。当然トラップもある。寝冷えをしたりとか、蚊にひどく刺されたりとか、食中毒とか。冷たいものの食べ過ぎ飲み過ぎでボディーブローを打ち込まれる」
「はい」
「しかし、サバイバルゲームだと思えば、勇敢に戦いたくなる。暑い暑いと言ってるより景気がいい。これは生き残りをかけた戦いだと思えば士気も上がる。普通の状態じゃなく、ものすごい状態の中を生き抜くようなね。だから気合いが入る」
「余計に暑苦しそうですが」
「また、特別な芸をしなくてもよろしい。ただただ暑さに耐えるだけでも。それを戦いだと思えば、勇気も出る」
「そんな勇気が出ない場合は?」
「覚悟して、諦めるしかない。暑さが過ぎるまでね。だから、このサバイバルゲームは本人のペースでやればいい」
「僕は毎年暑さに負けます」
「どのような負け方かね」
「ちょっとそこまで行こうとしても、暑くて途中で引き返したりします。暑さに負けて」
「あ、そう」
「それじゃサバイバルの失敗でしょ」
「いや、君主は危ないところへは近付かないという言葉もある。引き返すのは負けではない。作戦だ」
「あ、はい」
「だから、これは戦いなので、そんなシーンがあってもいい」
「じゃ、暑さに負けたわけじゃないのですね」
「そのまま行けば、本当に暑さでダウンしていたかもしれない。だから暑さに負けたのではなく、敵の攻撃を回避しただけ。いいことだよ」
「そうですねえ」
「夏は暑さとの戦いだ」
「勝てばどうなります」
「生き残っただけ」
「あまり成果はありませんねえ」
「だから、サバイバルなんだ。生き残ることが勝利なのだよ」
「はい」
 
   了



2017年8月1日

小説 川崎サイト