小説 川崎サイト



石船地蔵

川崎ゆきお



「やはり何かあるのかねえ?」
「やはりとは、やはりなんですか」
「昔からそうなのかもしれないねえ」
「でも、ただの石の塊りでしょ」
 沢田は頭が痛い。その原因が石仏にあるような気がした。
「隙でやることがないんでね、石船地蔵を探すことにしたんだよ。場所は分かっているんだ。この近くだ」
「石船地蔵ですか?」
「江戸時代の話さ。地蔵送りってのがあってね。村から村へ、地蔵を送るんだよ。まあ、祭りのようなものさ。そのお地蔵さんは船に乗ってる」
「石の船に乗ってる地蔵さんですか。あるんですねえ」
「で、沢田さんの体調が悪いのは石船地蔵が原因なんですか」
「やはり、そうかもしれん……と考えとる」
「きっと他に原因があるんですよ」
「石船地蔵はすぐに見つかったよ。それで隙でね。近くの神社とかを見て回ったんだよ。あるんだねえ。まだ。いろいろな石仏が……」
「じゃあ、祟ったのはそっちの石仏ですか」
「石船は祟らんと思う。祟りそうな気配がない。それがあるのはわけのわからん石仏のほうだ」
「どんな石仏なんですか」
「野ざらしで、もう顔もなくなってる石仏だ。そういうのがいくつかあって、見て回ったんだよ」
「悪い趣味じゃないですよね」
「そうだろ」
「だったら、祟りじゃないですよ」
「それがね、顔は消えているが、妙なスタイルの石仏があってね。韋駄天かもしれんなあ。衣装が似ていた」
「それが犯人ですか?」
「その横に羅漢さんのような妙にリアルな顔の石仏があった」
「それは顔は無事なんですね」
「韋駄天より新しいのかもしれん」
「それと頭痛はどう関係するんでしょうね」
「興味本位で見たからかもしれない」
「じゃあ、やはり、そうなんでしょうか」
「そうなんだ。やはりだ……」
「で、容体はいかがですか?」
「改善しとる」
「でも沢田さん。どうしてそっちへ原因をもって行くのでしょうね」
「頭痛のタネが分からんからさ」
「迷信の復活ですか?」
「そう考えたほうが、深みが出る。ただの頭痛でもね。本当の原因なんて医者にも分からんさ」
「では、話が深まったところで失礼します」
「あんたも気をつけるんだよ。最近わけの分からん事が多いからね」
 
   了
 
 
 


          2007年4月29日
 

 

 

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