小説 川崎サイト



誰も来ない

川崎ゆきお



 宮内は誰も来ていないことに気付いた。
「誰も来ておらん」
 パソコン教室の先生に言ってみた。
「そうなんですか」
「なんとかならんのですか? これじゃ寒い」
 宮内は教室の課題でブログを作った。それを見に来ている人が誰もいないと言っているのだ。
「でも、できたでしょ」
「できましたが、こういうものなんですか」
「はい、毎日日記とか、興味のあることをアップしてください。続けることが大事ですよ」
 一カ月が経過した。
「誰も来ていないのですが」
「そんなことはないと思いますが」
「しかし、どんどん虚しくなるばかりで。こんな淋しいものなのですかな」
「宮内さんは、誰も来ていないとおっしゃいますが、どうして分かるんですか?」
「コメントの書き込みがありゃせんがな」
「見た人全員が書き込むわけではないのですよ」
「いや、そうじゃない。見に来た人の人数が出る画面がありましょ。あそこはいつも一人なんだわ。こりゃ、私のことじゃろ。私しか見ておらんのですよ。故障しとらんですか?」
「書き込んでアップできますか?」
「できよるです」
「トラックバックはありませんか」
「それもあらしぇん」
「コメントやトラックバックを受け付けないの設定になっていませんか?」
「先生、そんなことより、一日の来訪者一人ですがな。これ私ですがな。トラックもコメントものうてあたりまえですがな」
「そうなんですか」
「この課題、まだ続けるのですか」
「あとは自由ですよ宮内さん。作れたことで課題は終わりです」
「しかし、来んとブログも楽しいないですな。悲しくなりますよ。先生もブログをやっておられるのですか?」
「いえ、私はやっておりません」
「やっぱ、誰も来んからでしょうか?」
「まあ、そうかもしれませんねえ」
「どうしたら見に来てくれるんでしょうか」
「そうですねえ。宮内さんも他の人のブログへ行き、コメント付けられてはいかがですか」
 それからひと月経過した。
「先生、まだ誰も来とらんとですが……」
「おかしいですねえ」
「ネットに繋がっておらんのかもしれん。本当にこれ、ブログなんでしょうな」
 先生は宮内のブログを開いた。
「繋がってますよ。宮内さん」
 宮内はアクセスカウンタを見ると今日だけ1から2になっていた。
「安堵しましたばい」
 
   了
 
 


          2007年4月30日
 

 

 

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