小説 川崎サイト

 

弁天魔

 
 妖怪博士が古い怪異談を調べていると「べんてんま」という妖怪が出てきた。弁天間と書くのか、弁天魔と書くのかは分からない。かななので、ただの発音だ。当て字ができるほど流行らなかったのだろう。
 大人になりかけの少女が見るようで、小さな子供や大人には見えないとされている。その姿はまちまちだが、実はこの弁天魔、姿を現さない。そのためビジュアル性がないので、そのうち忘れられたのだろう。
 では何処に現れるのか。それは少女の中に幻覚として出る。これも妖怪としては弱い。形のない妖怪は弱い。
 この妖怪、少女に付きまとっているのだが、内蔵。そのため、その動きはまちまち。その人に即した怖いことをする。その性格はその少女の性格により変わるので、同じ弁天魔でも共通した特徴がないのだ。これも妖怪として弱い。何かに特化したり、突き抜けた箇所がないと、妖怪らしさがないためだ。
 妖怪博士は少女時代などないので、少女については疎いため、どんな状態になるのかは想像できない。その解説も曖昧なもので、少女に何か異常が起こるとなっているのだが、本人が言うには弁天魔が出たとしか言わないらしい。出たといっても少女の中に出ただけなので、外からは見えない。
 狐憑きのようなものかもしれないが、それならそういう動作をするものだ。しかし弁天魔は少女も見ているだけで、弁天魔に憑依されるわけではない。
 この弁天魔、妖怪としての知名度が低いというより、忘れられた妖怪で、そんな妖怪の存在など、今では誰も知らないのだが、今の時代でも少女に弁天魔が出ているのかもしれない。ただそれを弁天魔だとは気付いていないのだ。
 弁天魔と名付けた人が、昔おり、やはりベンテンは弁天を当てる方がいい。弁天さんは弁財天のことで、これは女性であり、インドの神様だ。川や蛇と関係づけられている。
 インドの神様は厳しいものがあり、魔的な面も含まれるので、弁天魔と書くのがいいのかもしれない。つまり少女の持つ魔だろう。内なるところから来ているのだが、少女はそれを外部のものとして見ている。
 内部の魔のため、その少女に即した現れ方をするため、弁天魔は一様ではない。少女によって違うのは、くどいが少女が発しているためだ。
 この弁天魔の退治方法は、解説によると、大人になれば消えるとなっており、何もしなくてもいいらしい。
 これを読んでいた妖怪博士。この弁天魔、今でもいるような気がしたが、少女ではない博士には分かりようのない話だ。
 
   了


2017年8月30日

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